雨×ケンカ

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そう言うと、鬼島君はどこか気まずそうに 視線を反らす。 「悪ぃ。 こんな傷、見たくねぇよな。」 「そうじゃなくて、どうしたの?」 私の視界からそれをどけようとしてるのが分かった けど、わざとぎゅっと掴んで離さなかった。 鬼島君は少し驚いたような顔をしてる。 でも私は退かなかった。 「久しぶりに喧嘩を売られたんだよ。 だから買ってやった。」 「もしかして…昨日の人?」 「ああ。」 答えを聞いた瞬間、昨日のあの黒木って人が 鬼島君に何かを囁いた光景がよみがえる。 あの時、何て言ったのかは聞こえなかった。 その内容が気になってはいたんだ。 本当ならすぐにでも聞いていたはずなのに。 その後のことで頭がいっぱいになってしまって タイミングを逃してた。 「あいつら、弱いくせにつっかかってきやがる。 普通にやったんじゃ勝てないって分かってるから 武器持ち出してよ。 ま、それでも俺が勝つけどな。」 …きっと、あの時に黒木って人に喧嘩を 売られたんだ。 「保健室に行こう!」 「大丈夫だよ。 これくらい大したことねぇって。」 鬼島君にとっては本当に大したことないんだろう。 私と違って慌ててなんてないし、痛がってる様子も 全くない。 たぶん、こんなことは日常茶飯事なんだと思う。 ───今まで私が知らなかっただけで。 「駄目だよ!」 気付けば、自分のものとは思えないほどの大きな 声が出ていた。
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