雨×ケンカ

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決して乱暴にではなく、だけど強い力で引き寄せ られて行き着いた先は鬼島君の胸。 気付けば私は抱きしめられていた。 どこか躊躇いがちに背中に添えられた大きな手。 その手はさっきまで私が掴んでいたはずなのに。 ドクドクドクッと、どっちのものか分からない 大きな心臓の音が響く。 「お前に泣かれると困るんだよ。」 ハスキーなその声が更に掠れていて、それが何だか 切なく聞こえた。 「あと、その声であんまり可愛いこと言うな。」 「…えっ?」 「なんでもねぇ。」 ボソッと囁くような小さな呟きだったけど、何でも ないって言われたけど、私にははっきり聞こえて しまったんだ。 どんな反応をしたらいいか分からなくなる。 もういっぱいいっぱいだから。 でも、いつの間にか涙は止まっていた。 「もう、ケンカはしねぇ。」 ふいに鬼島君は口を開く。 思わず顔を上げた私の視界には、つい見とれて しまいそうになるほど優しい顔がある。 「本当…?」 「ああ。 また日下部に泣かれたら困るからな。」 そう言って笑った鬼島君。 ポンポンと、まるでなだめるみたいに私の頭を 撫でると最後に囁いた。 「約束する。」 切れ長の瞳が真っ直ぐに私を見つめている。 だから、その約束は鬼島君の本心からのものだって 分かって、安心した私はまた泣きそうになって しまった───。
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