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正確に言うと、腰を抜かしたって言った方が
いいのかもしれない。
誰かの登場によっぽど驚いたのか、私の手首を
掴んでいた手はパッと離されて、崩れるように
床に尻餅をついてたから。
彼はパクパクと口を開けてから、絞り出すように
こう言った。
「き、鬼島、どうしてっ…?」
"鬼島"…その名前を聞いて、彼が腰を抜かした
理由が分かる。
鬼島康平(きじま こうへい)───この学校に
通っていたら、その名前を知らない人は居ないと
言うくらいの有名人。
でもそれは、いい意味でじゃない。
「あ"?自分のクラスに来ちゃ悪いのかよ。」
「い、いやっ、そんなことは…」
「いいからとっとと失せろ。
目障りだ。」
それを聞いて、床にお尻をついていたはずの彼は
勢いよく立ち上がった。
そして、側で青い顔をしていた取り巻きの男子達と
逃げるようにして教室を後にする。
まさに一瞬の出来事だった。
突然のことに呆然としていた私は、一拍間を置いて
ハッとする。
今、この教室には私と目の前のこの人だけになって
しまったことに気づいたから。
恐る恐る顔を向けると、相手もこちらを見ていて
バッチリ視線が合ってしまった。
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