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花火×約束
長く感じた梅雨が明けて、もうすぐ夏休みが
始まろうとしてる。
温暖化のせいもあると思うけど、今年の夏は
特に暑くなっている気がした。
それでも、屋上でお昼を食べることは止めない。
やっぱりこの場所が一番落ち着くから。
───私と鬼島君の秘密の場所のようで。
「鬼島君は夏休みにどこか行ったりするの?」
ご飯を食べ終わってペットボトルを口にしていた
鬼島君は、そんな私の質問にふっと視線を向ける。
「別にどこも行かねぇな。」
「旅行とか好きじゃないの?」
「いや、そうわけじゃねぇけど。」
ごくごくとペットボトルを一気に飲むその姿に
つい見とれてしまう。
当たり前だけど、私よりもずっと太い首。
飲み物を流し込む度に揺れる喉仏。
暑いからか、いつもよりボタンを外してはだけた
胸元。
その全てが男らしくて、何だかいけないものを
見てしまっている気がする。
ペットボトルを口から離した鬼島君は、ふいに
話し始めた。
「俺の親父がさ、大工やってんだよ。
夏休みはいつも現場の手伝いに駆り出されるから
遊ぶ暇なんてねぇ。」
「そうなんだ。」
鬼島君はおしゃべりな方じゃない。
きっと聞いたらいろいろ答えてくれるんだろうけど
お家のこととか、今まではあんまり踏み込んでは
聞けなかった。
だから嬉しい。
鬼島君が自分からプライベートなことを話して
くれるのが嬉しい。
「すごいね。
鬼島君のお父さん、大工さんなんだ。」
「別にすごくはねぇだろ。」
そう言って、鬼島君は何故か視線を反らせた。
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