花火×約束

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口調はぶっきらぼうだし、一見すると怒って いるようにも見えるけど私はもう知ってる。 こういう態度をとる時の鬼島君は、照れている んだって。 その証拠に、口元は少しだけ緩んでる。 「もしかして、鬼島君はお父さんのお仕事を 継ぐの?」 「すぐには継げねぇけど、まぁとりあえず卒業 したらみっちり修行させられるだろうな。」 なんて、面倒くさそうにしているけど私には どこか楽しそうに見えた。 きっと口にはしなくても、鬼島君はお父さんの ことを尊敬しているんだと思う。 それと同時に妙に納得した。 だって、高校三年生なのに全然受験勉強をしている 気配がなかったから。 「日下部はどっか行くのか?」 「ううん。夏期講習があるから。」 ぼっちを極めてしまった私は、勉強しかすることが なかったから成績はそれなりにいい方。 でも志望する大学はなかなかレベルの高い所だから 勉強は手が抜けない。 「…本当は一日くらい遊んじゃいたいん だけどね。」 つい、心の声が漏れてしまった。 それは密かに考えていたこと。 初めてできた"友達"と夏休みに遊んでみたいって。 「でも、受験勉強頑張らなくちゃ。」 慌てて、自分に言い聞かせるようにそう口にした。 切れ長の瞳が物を言いたげに私を見つめる。 でもすぐに視線は反らされ、鬼島君は何かを考えて いるようだ。 私達だけの静かな屋上を夏風が包んでいた。
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