花火×約束

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鬼島君のその独特なハスキーな声がスマホを 通して聞こえる。 いつも聞いている声なのに、こうして電話で聞くと また違って聞こえて何だかドキドキした。 「何が?」 『浴衣だよ、浴衣。 着てくるのか?』 「うん。駄目かな…?」 浴衣を着て行くことに関して、何かひっかかることがあったのかなと心配になる。 自分でも分かりやすく声が沈んでしまった。 すると、鬼島君は少し慌てたように息を漏らす。 『っそうじゃねぇ。ただ…』 「ただ…?」 『…どんな浴衣か気になっただけだ。』 思わずスマホを持つ手が震えた。 今、自分がどんな顔をしてるかなんて見えないけど きっと変な顔をしてると思う。 「えっとね、お母さんが若い頃に着てた浴衣だから 地味なんだけど、紺地に…」 『待て!』 どんな浴衣か気になるって言われたから、説明 しようとしたのに突然、遮られてしまった。 スマホを持ちながら首を傾げた私の耳に聞こえて きたのは意外な言葉。 『やっぱ楽しみは当日までとっとく。』 ボソリと、でも確かに告げられたのはそんな言葉。 それは私の顔を熱くさせるには十分過ぎた。 鬼島君とは友達だけど、でもまるで女の子扱いを されている気分になってしまう。 何て答えたらいいか分からなくて、慌てていると 『花火大会、楽しみにしてる。』 ───ハスキーな、でも優しい声がそう言った。
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