花火×約束

11/14
前へ
/113ページ
次へ
鬼島君のその大きな手をとって、思いっきり 引っ張る。 「どこに行くんだよ? もうすぐ花火が始まるぞ?」  「それよりも怪我を手当てしなくちゃっ。」 「おいっ…!」 人混みをかき分けて、花火大会の会場とは逆方向 に歩く。 初めのうちは戸惑った様子の鬼島君だったけど 暫くすると諦めてくれたのか、全く抵抗が なくなった。 私が無理やり掴んでいたはずの大きな手は いつの間にか私の手を包んでいる。 あれ? これって手を繋いでることになってる…? そんな疑問が微かに頭を過ったけど、なるべく 気にしないようにして足を進めた。 そうやって歩いていくうちに小さな公園を 見つけて、そこへ鬼島君を連れて行く。 真ん中にある水飲み場まで来て、いつの間にか 繋いでいた手を離すと、何だか寂しいような 気持ちになった。 手提げからハンカチを出して水に浸す。 それを背伸びして、鬼島君の頬にそっと当てる。 「っ…!」 「ごめんね。痛かった?」 顔をしかめたのを見て咄嗟にハンカチをとろうと したけど、鬼島君は私の手からハンカチを抜き とってゆっくりと頬に当て直す。 「大丈夫だ。 ありがとな。」 そう言った声は小さかったけど、すごく優しい 声だった。
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加