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「お前らええ加減にせえよ」
谷先生の怒号が飛んだ。
「いっつもいっつもぺちゃくちゃ、お前らもう中学生やろ。黙って話聞くことくらいそろそろできるやろ、なあ。それかもう喋りたいんやったら外出て話せ、授業真剣に聞いてるやつの迷惑や」
ガチギレだった。それも何故か関西弁。
しかし、谷先生の豹変ぶりにはクラス全員が衝撃を受けていたに違いなかった。演技とはいえ、普段温厚な谷先生のこんな姿を見るのは初めてだ。
――これがリハーサル……まさにガチギレリハーサルだ。
そんなことを俊哉が考えている時だった。
「特にお前や。川西」
唐突に、谷先生が指を差した。
俊哉はドキリとした。指先が彼の方向を差していたからだ。それに目もあっている。周りを見渡してみると、生徒全員が自分に視線を向けていた。――え、俺?
川西って誰だと思ったが、そういえば4組にそんな不良がいた。まさか俺が川西の役なのかと俊哉は困惑した。何故俺なのだと。
「そういえば川西の席って、今の俊哉と同じところだった気がする」
隣の友人が小声で教えてくれた。まじかよ……と俊哉は嘆いた。運が悪すぎる。今日はついている日だとばかり俊哉は思っていた。なぜなら彼は今日、登校中に俊哉の愛してやまないあるアニメキャラクターのストラップを拾ったからだ。もしかしたらこれは人のものを自分のものにした罰なのか。
「お前が一番うるさいねん。なあ。そんな喋りたいんやったら外出ろって。それかお前が代わりに授業やってくれるんか?」
谷先生の血走った目が俊哉を捉え続けていた。え、どうしたらいいの? と俊哉は周りに助けを求める視線を送った。だが目の合った人は避けるばかりで、彼の体に冷や汗が流れ始めた。
「なあ、なんか言えよ。こんな時だけ黙るんか、え!?」
谷先生は持っていたチョークを地面に叩きつけた。何人かの生徒の肩がびくんと跳ね上がるのが見えた。俊哉もそうだった。何か言った方がいいのかと思うが、そんな勇気はない。本当にこれが練習なのかと疑うくらいに谷先生は怖かったのだ。
――誰だよ、こんな練習やってもいいって言ったやつ……。
「もういいわ。出ていけお前、な?」
谷先生がこちらに近づいてきて、俊哉の腕を強く掴んだ。
「え、ちょっと先生」
俊哉は半ば引きずられる形で廊下に出された。
「待ってください先……」
言い終わる前に、教室のドアが勢いよく閉められた。
「ごめんねみんな。じゃあ授業の続き始めよっか」
扉の向こうから、いつもの谷先生の穏やかな声が聞こえてくる。それから先生は本当に授業を再開し始めた。
――え、ほんとにどうすればいいの?
俊哉は意味もなくその場を歩き回った。時には体を摩ったりもした。そうすることで、少しでも居心地の悪さを紛らわせたかったのだ。
――これもリハーサルの一部なのか?
しかしそうとしか考えられない。他に何があるというのだ。まさか川西役としてではなく、俊哉としてあんな激怒してたわけではあるまい。とはいえ、一瞬そう疑ってしまうほどの迫力さが谷先生にはあった。
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