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「おい。一年の川西ってやつはどいつだ」
谷先生が殴られる直前のところ、廊下の奥から声が響いてきた。
そちらに目を移すと、何人もの不良を引き連れてくる男がいた。悪い噂が絶たない東堂という不良だとすぐに分かった。何度か見かけたことあるが、その度に絶対関わらないでおこうと俊哉は決めていた。
「やべえ、東堂だ……」
谷先生から手を離していた川西だが、彼はがくがくと震えていた。
「お前か、川西ってやつは」
ここまで来た東堂が川西を見下ろした。三年生の東堂は川西よりも一回りも二回りも大きかった。
「お前かって聞いてんだよ」
怖くて声も出ないであろう川西に問い詰める。
すると川西は小刻みに震えながらも首を横に振った。それから彼は「か、川西はこいつです」と俊哉を指さした。
「はあ? ちょっと待ってくれ俺は……」
抗議しようとすると、谷先生が俊哉の両腕をがっしりと掴んだ。
「川西くん、君いったい何したの!? もしこの先輩に悪いことしたならすぐ謝った方がいい」
ふざけんなよと思った。――今この瞬間だけは演劇魂捨てるべきだろ。
「先生の言う通りだ川西。悪いことをしたならすぐに謝るべきだ。だがお前はもう遅い。調子に乗りすぎた」
東堂に胸ぐらを掴まれた。学ランが千切れそうな程の力だ。
「違います違います。僕川西じゃなくて江本なんです。色々あってその……」
「馬鹿言うなよ! 江本は俺だろうがよ」
川西が言い切った。てめえ、と俊哉は睨んだ。
「俺の許可なしに暴れ回ってるようだから、躾が必要かと思ってな。すぐに済むからついてこい」
胸ぐらを掴まれた状態で俊哉は引きずられた。その間俊哉は全力で自分が江本だと訴えたが、東堂は聞く耳を持とうとしなかった。
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