3 正しいゲイの愛し方

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 竹内の明るい声に、華は今度は本当に飛び上がった。椅子をひっくり返しそうになる。紛れもなく桂山その人が、入口からこちらを覗き込んでいた。華は後方から忍び笑いを浴びせられながら、彼のほうに向かう。めちゃくちゃ嬉しいけれど、ちょっと今は心臓に悪い。心なしか眩暈がした。昨日はありがとうございました、という声が震えそうになる。 「こんにちは、大平さんが強引にお友達を連れて来たでしょう? たけうっちゃんもいるのか」  桂山は微苦笑の目になって言った。いい色のネクタイしてるな、よくお似合いです。同じ課なら愛称で呼んでもらえるのかと思い、華は一瞬部署異動を考えてしまった。 「原西さん、いつも通りに出勤してますか?」  桂山はやや声を落として、訊いてきた。なるほど、経理課の相談者のアフターという訳だ。 「はい、昨日はごめんねって言われただけで普通です……お昼は外に行ったと思います」  華は少し冷静になり答えた。桂山はそう、と言って、2秒考えてから続けた。 「松山さんが迷惑でなければ、彼女の様子が変だったら相談室のアドレスに一報欲しいです、経理課に相談員がいないからフォローがなかなか難しくて」  何と、桂山のお庭番にしてくれるらしい。華は躊躇(ためら)いもなく承知した。彼がありがとうと言って、悠然と去るのを見送る。ああ、昨夕に続いて顔を見られるなんて、明日死ぬかも。  華がテーブルに戻ると、南野と竹内のにやけた顔に迎えられた。 「松山さんの全身からときめきが溢れてたよね、良き良き」  華はスマートフォンを取り上げた。とち狂った名のグループを承認すると、スマートフォンが嬉し気に震えた。もうプライドも何も無く、人生が詰んだ音のような気がした。  華は桂山に心の中で謝る。課長すみません、私如きが(こく)ろうなんて、恐れ多かったです。課長がゲイだからこそ、黙って愛でるという愛を学びます。だからおこな顔も笑った顔も、見せてください。お願いします。  自分の懇願を聞き、仕方ないですね、と桂山が笑顔で言ってくれることを想像して、華はやっぱり幸せになるのだった。
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