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週明け、華は自分の欲望と理性の板挟みになりながら、平静を装いパソコンに向かっていた。営業課から持ち込まれた苦情は、瞬時に解決した。経理課内での名誉回復がなった華は、それには満足していた。しかし平和的に桂山とお近づきになる方策が見つからないのは、彼女に焦燥をもたらした。
それ以降、経理課に誰か男性がやって来ると、桂山かと期待して顔を上げたり、弁当を作るのを止めて、昼休みに社員食堂に桂山の姿を探したり、営業課に何か持っていくものができたら、自ら私が行きますと言ってみたり。なのにいつも桂山は捕まらなかった。……これはまずい。華は精神的に不健康になりつつある自分に焦る。誰かと桂山の噂くらいできればいいのに、華はそういう相手を持っていなかった。桂山には一定数のファンがいるという。経理課に誰かいないのか。だが見つかったとしても、「デキるバリバリ経理畑の新人」のプライドが邪魔して、そんな話題を持ち出せないだろう。いや、デキる新人がゲイの営業課長に懸想して何が悪い。華は行ったり来たりする自分の煩悶に、振り回される。
「相談室」の新しいニューズレターが社内に配布された日、遂に華は決断した。よろず相談承ってくれるというなら、ゲイを好きになって困っていると、桂山に相談してやる。そう思いついた時点で、デキる新人は、相当どうかしていた。
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