2 男の激おこと優しみ

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「まあせっかく淹れたからコーヒー飲みましょうか」  桂山が言うと、大平もそうね、とマスクを外した。華は桂山がマスクを取るのを見ながら、どストライクじゃないかと感激してほとんど戦慄した。絶妙な位置にある形の良い鼻と口。柔和な笑みが人の良さを増幅させる。華は「優しげでよく見たらイケメン」にめっぽう弱い(学生時代に一番長く付き合った男性以来の遭遇だった)。経理課の人でさえ、素顔を未だに知らない人がいるのだから、桂山のそれを知る訳がなかったのである。 「あ、えっと、その……とってもつまらない悩み、なんですが」  室員二人に(うなが)され、華はコーヒーを一口飲んでから、(ども)りながら話す。 「……と、友達ができません」  なるほど、と桂山が大真面目に相槌を打つ。大平もうーん、と唸った。 「つまらなくないわよ、複数の新入社員が同じ悩みを抱えてるし、松山さんは中途だもの、余計よね」  だから桂山課長と仲良くしたいです、と冗談の皮を(かぶ)った本音を吐きにくい空気が、コーヒーの香りに混じり部屋に広がった。 「社食もあまり話をするなって言われるしね、松山さん弁当女子?」  桂山に訊かれて、はい、と礼儀正しく答える。ああ、週2日は桂山課長を探して社食を使うようになったと、自分アピールしたい。 「私の印象では、もしかしたら経理課の連中も、松山さんともっと話してみたいと思ってるかも」  桂山が言ったその時、部屋の扉がノックも無しに荒っぽく開けられた。華はびっくりして、そちらを振り返る。入ってきた女性を、華は良く知っていた。同じ経理課の原西である。入社した時、よく教えてもらった社員の中の一人だ。彼女は華の姿を認めて目を見開いたが、二人の室員に向き直った。 「桂山課長、大平課長……子どもを虐待してるみたいだってお隣から管理人にチクられました」
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