2 男の激おこと優しみ

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 原西は切羽詰まった様子で、真っ赤な顔をして肩で息をしていた。尋常でないその表情に、華は思わず腰を浮かせた。自分は去るべきだ。しかし原西に止められた。 「いいの、すぐ帰るから松山さんも聞いて」  想定外の展開に、聞きたくねぇよ、と胸の内で突っ込む。原西は仕事が早くて頼りになるが、気分にムラがあるので経理課には良く思っていない人もいる。こういう軽率なところも、そう受け取られるのだろう。 「私がいない時に連れ合いがうちの子に何かしてるのかしら」  華は自分の眉間に皺が寄るのを自覚した。シングルマザーであることは、本人から聞いていたが、変な男を家に上げているのだろうか。 「私たちにはわかんないわよ、連れ合いに直接聞けないの?」  大平はやや強い口調になった。原西がこの部屋を訪れるのは、初めてではないらしい。それは、と原西は口籠る。高速で電卓とキーボードを叩いて、次々と伝票を処理する普段の彼女からは考えられない様子だ。 「聞きたくても聞けないってこと? 殴られるから?」  桂山もはっきり言った。その厳しい表情に、場違いにも見惚(みと)れる華である。 「殴ったりしないわよ、不機嫌にしたくないの」 「あなたね、彼氏が不機嫌になるのと隣が不審に思うくらい子どもが泣くのと、どっちがヤバいって思ってる? 先週も言ったけど」  原西の訴えを、大平はぴしゃりと封じた。鉄の女と男子社員に陰で呼ばれるだけのことはあり、なかなか迫力のある返しだった。 「それは……うちの子も悪いのよ、彼に懐いてくれなくて……再婚も考えてくれてるのに」  話すうちに原西のマスクが少し下にずれた。彼女はすぐにマスクを直したが、華はその時覗いた彼女の頬骨に、青黒い色を見て胸がひやりとする。
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