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「とにかくお隣に謝って、あなたに心当たりが無いなら彼に確認するのよ、至急」
大平の声に、原西は力なくはい、と答えて、来た時とは裏腹にしょんぼりと部屋を出て行った。大平は腕組みをして溜め息をつく。
「あの……原西さんのこの辺り、青痣みたいなのがありました」
華は指で自分の頬骨に触れながら、恐る恐る言った。桂山がうん、と同意した。
「人事にも話して、弁護士に相談してみましょうか」
桂山の言葉に、大平は難しい顔になる。
「原西さんが否定してるからねぇ」
「彼女絶対DV受けてますよ、暴力で女子供を従わせるなんで最低だ」
華は眉を吊り上げた桂山を見て、感じた。口調以上に……激おこだ。華は不謹慎にも、胸の内を痺れさせた。会社では滅多に見せることのない、強い怒りを孕んだ表情はもちろん、彼がこうして他人のために本気で怒ることに。……桂山課長は本気で優しい。
華は深刻な案件に巻き込まれ、自分の相談を完全に後回しにされたにもかかわらず、1時間後に満足して相談室を辞した。部屋で見た桂山のいろんな表情や、喋り声を反芻するだけで、何時間もハッピーに過ごせそうだった。激おこな顔も素敵です。華はマスクの中で思う存分にやにやしながら帰途についた。
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