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3 正しいゲイの愛し方
その翌日、昼休憩のチャイムが鳴ると、見知らぬ女性が華のもとを訪れた。年齢が近そうな、クリッとした目の彼女は、総務課の南野と名乗った。華がつい怪訝な顔をしたので、南野は笑顔で説明を始めた。
「大平課長から松山さんのランチ友になってあげて欲しいと頼まれたの」
これが昨日の相談の回答であるとは察したが、直接的過ぎて逆に不審だ。
「松山さんはお弁当? 場所借りていい?」
南野は自分のランチバッグを目の前にぶら下げた。まあいいだろう。華は課の部屋の奥にあるテーブルに彼女を案内し、お昼用に用意されている電子レンジとポットの前に座る。
マスクを取って二人して弁当箱の蓋を開け、お茶のパックをマグカップから引きあげていると、南野がやや声をひそめて、言った。
「松山さん、桂山課長のこと好きなんだって? うちの課長が間違いないって言うんだけど」
華は瞬時に固まった。何、大平課長がこの人に何を言ったって?
「桂山課長が居合わせたら、松山さんが課長の顔ばっかり見てるって」
「ななな何のことか全然分からないんだけどっ」
動揺のあまり、華の箸が手から離れてテーブルに転がった。南野は朗らかに笑った。華は思わず周りを伺う。今日はたまたま、この部屋に残って休憩をしている者がおらず、そのことに胸を撫で下ろす。
「ああもう返事聞かなくていいわ、顔赤いし」
「ええっ⁉」
「あきちゃん繋がりの輪に入れてあげる、たまにZoomで飲み会もするわよ」
私の桂山課長をあきちゃんなどとなれなれしく呼ぶとは! 華はその妙な繋がりにもし入れば、自分が全くの新参者になるにもかかわらず、そんなことを考えた。
「……別に入れてもらわなくてもいいです」
「え、一匹狼で行く? 情報シェアできるのに……ほら、お庭番が来たわよ」
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