工作撃破

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「やばっ……結構な大技を出すつもりかも……!」  その魔力の勢いに、シンジが固唾を飲んだその時だ。  大きな音とともに、デルタの背後にあった扉が勢い良く開き―― 「きゃあっ!」 「うわあ〜!」 と、そこから飛び出して来たのは―― 「ええっ⁉ ヨウサちゃん⁉」 「ガイも!」  予測もしていなかった突然の二人の登場に、双子は思わず声を上げた。 「あいたたた……」  登場とともに身体をぶつけたのか、ヨウサもガイも自分の体のあちこちを擦る。 「ええっ、一体どうなってんの⁉」  剣の構えを解き、目を丸くする三人の目の前で、ヨウサとガイははっと気がついたように双子たちを見た。 「――あ、シンくんにシンジくん……! ――ってことは……」 「……やったね〜!」  と、急にヨウサとガイはお互いにハイタッチする。 「えええ⁉  一体どういうことだべ?」  意味がわからず首をかしげるシンに、ヨウサは嬉しそうに話しだした。 「実は私達、エプシロンの作り出した迷路に閉じ込められていたの!」 「ええ⁉ やっぱり迷路だったんだ……」  ヨウサの言葉にデルタの発言を思い出すシンジである。 「で、そこで迷路攻略にこのボクが頑張ってだねぇ……」 とガイが語りだそうとすると、興奮気味のヨウサがそれをさえぎって結論から入る。 「ようは、そこでエプシロンと戦って勝ったのよ!」  ことの流れはこうである。  迷路の中心部、エプシロンが迷路を作り出す円状の空間にヨウサとガイが入り込み、いざ対峙した時のことだ。対峙した途端、エプシロンはいつもの得意技、眠りの術で二人を眠らせようとしてきたのだ。  漫才の途中に攻撃を仕かけられたものだから、エプシロンの攻撃をヨウサもガイもよけきれなかったのだが…… 「……えっ……⁉」  驚きの声を上げたのはエプシロンの方だった。 「な……どういうこと……⁉」  眠りの術を受けたはずのヨウサとガイは、一旦床にひざまずいたものの…… 「へっへっへ〜! 残念だったね〜!」  エプシロンの期待とは裏腹に、そこには眠らずに不敵に笑うヨウサとガイの姿があったのだ。 「ど、どうして⁉ 呪詛返しをしたわけでもないのに、どうして貴方たち……」 「眠らないのかって、聞きたいんでしょ〜? 残念でした〜! 初めから魔法反射の結界を張っていたんですよ〜だ〜!」  そう、ガイは確かに攻撃魔法には長けてはいないが、それ以外の魔法のバリエーションとその能力は意外に高い。対戦するのがおそらくエプシロンであることを予測して、ガイはヨウサと自分に、前もって精神侵略系の魔法を反射する結界を張っていたのだ。 「スキあり! 『雷甲(ライコウ)っ』‼」  驚いた隙に、ヨウサはその手に準備していた雷魔法を切らすことなく素早くエプシロンに向けて解き放った。  電撃はまさに一瞬。息を飲む間もなく、鋭い電撃はエプシロンのその両手の甲に突き刺さった。たちまち両手がビリビリとしびれ、手の甲に発生していた魔法はブツリと切れた。 「しまった……!」  その一瞬の隙を取られ、エプシロンが作っていた魔法は停止した。 「――で、その魔法が切れた!って思った次の瞬間、急に身体がどこかに放り出される感じがして、気がついたらここに出て来たって訳なの」  ヨウサが手短に迷路の中での話をすると、それを聞いていた双子がほっとした表情を浮かべる。 「とりあえず良かっただべ! ヨウサもガイも無事で……」 「……って、いつまで人の上に乗ってるつもりだぁああああ‼‼」  急な大声に、思わずその場にいた全員がハッとする。  言われて初めて気がついた。なんとヨウサとガイが着地した地点は、見事デルタの真上、二人に潰される形でデルタが床でうめいていたのである。足元に敵が(というか敵を踏み潰して)いるのである。肝を冷やしたのは当然ヨウサとガイである。 「きゃあ‼」 「ど、どこから現れたんだ〜⁉」 と二人はあわててその場から飛び退くが、 「それはこっちのセリフだっ‼」 と、デルタが怒るのは至極当然である。 「ひ、人をどこまでバカにしてんだ、お前らはぁ〜‼」  ますます怒りに火が付いて、まさに鬼の形相のデルタに、双子はあわてて構えを取る。 「別にバカにしたかったわけじゃないよ! たまたまじゃないか!」  さすがに悪かったなと思っているのか、シンジが言い訳する隣で、 「デルタにはお似合いだべさ!」 と、再びケンカを売っているのはシンである。 「もー容赦しないかんな! ガキだからって容赦しねぇ‼ ペルソナ様には時間稼ぎしろとしか言われてないが、こーなったら徹底的にやっつけてやる‼」  怒りのあまり顔を真赤にしてしゃべっているデルタだが、その発言に、彼以外の全員がハッとする。 「そうだべ、ペルソナ……!」 「時間稼ぎだって……?」  双子が息を飲むその隣で、思い出したようにヨウサが口を押さえる。 「そうだわ! エプシロンも……」 「そうだよ〜! 迷路でボクらの足止めして、その間に……って言ってた〜!」  ヨウサとガイの発言に、シンジは唇を噛んだ。 「そういうことか……。どうりでいつまでたってもペルソナが現れないと思った!」 「召喚獣があちこち現れたのも、デルタが警備隊に紛れ込んでいたのも、全部ペルソナの罠だったんだべな! オラ達が魔物や迷路に気を取られているうちに、ユキの部屋に侵入していたんだべな!」  敵の真意に気がついて、悔しさに唇を噛む双子の目の前で、怒りに瞳を爛々と燃やすデルタが小気味良さそうに笑った。 「はっはー! その通りさ! だが、今更気がついても遅いぜ‼ 今頃ペルソナ様は、あの闇の石を入手しているはずだ!」  勝ち誇ったようにデルタが高笑いし、その両腕が燃えるような赤に光り始めていた。 「それにお前らはここでオレのこぶしの犠牲者になるだけさ‼」  デルタの腕から発せられるその力に、その場の全員が戦闘態勢をとったその時だ。 「きゃーーっ⁉」  甲高い女性の叫び声とともにデルタ背後の扉が開き、そこから飛び出してきたのは―― 「エプシロン⁉」  思わず叫ぶシン達の目の前で、エプシロンはやはり目の前のデルタに激突し――  ……案の定、デルタは再び潰されて、床に倒れこむのであった……。
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