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初めてのキス、久しぶりのキス
「まあ、タチならいいけどな」
「ありがとうございます……う、うう」
男は眼鏡を外すと、涙を拭っている。
「そんなにつらかったのか? 誰の体も知らないでいることが」
「……俺、もうすぐ結婚しなくちゃいけないんです」
俺は息を呑んだ。
「実家の旅館を継ぐために。だから、その前に……。将来の嫁さんに悪いのはわかってます。でも男と経験してみたい。今夜だけ、いけないことがしたいんです。……できることなら、抱かれるだけではなくて、抱くのもしてみたかったけれど……」
そんなに必死な理由なら……。俺は決心した。
「そういうことだったのか。誘い方が下手だから、断るところだったぞ」
「すみません。どんな誘い方でも聞き慣れてるはずだから、いちばん直球なのがいいと思ったんですよ」
「直球すぎるわ。処女と童貞をもらってなんて。えっと、おまえが泊まるホテルでするか」
「はい……って、ああ!?」
「どうした」
「俺の部屋、シングルです」
「ああ、それは大丈夫。宿はユネホテルだろ」
島でいちばん大きいホテルの名を言うと、男は頷いた。俺は、スマホに登録してある番号に電話をかけた。
「うわあ、すごい……」
男はスイートルームに入ると、あちこちを見ている。
「ユネホテルは、追加料金なしでスイートに変更できるんだよ。ひとりで泊まる料金とおんなじ。ここは、そういうことをするための島のホテルだからな。さ、しよっか?」
「はい!」
俺は男を抱きしめた。俺より胴回りが太い体を。男は強く、強く、俺を抱きしめた。
「名前はなんて言うんだ?」
「大河です。原田大河」
「強そうな名前だな」
「タイガーって意味じゃないですよ」
「もっと強くなれよ、大河。旅館、でっかくしろよ?」
「はい……」
「まずはどっちからしたい?」
「え?」
「どっちもしたいんだろ?」
「それじゃあ、抱きたい! 烏丸さん、お願いします!」
「わかった。もしどうすればいいか困ったら、教えてやる」
大河は俺を抱えた。
「おい、腰を痛めるぞ……」
「烏丸さんは軽いですよ」
キングサイズのベッドに降ろされた。ベッドの上でふたりでキスを交わす。
唇がふれた途端、痺れるような感覚が背筋を走る。懐かしい刺激に戸惑った。大河は音を立てて、俺の唇を舐めている。
「キスって興奮しますね……」
「そうだな」
「烏丸さんもですか」
「ああ。久しぶりだからな」
お互いのTシャツをめくった。手のひらで撫で回す。大河の手があまりにも熱くて、俺の息は乱れた。
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