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男が男を求める島
俺が暮らす島は、九月でも暑い。半袖にハーフパンツでも街中を歩くと汗が出る。
だから、俺は九月二十六日生まれなのに、自分は夏生まれだと答えている。今年も暑い誕生日だなあ。
夏生まれ。うまい表現だ。
誕生日はいつかと聞かれ具体的な日にちを言えば、島の男どもが忘れられない一夜にしようと誘ってくる。俺は誰かひとりの男になれないから、断るしかない。それが面倒だから、誰にも誕生日を教えてこなかった。
移住して今年で二十年か。いままで、何人食ったんだっけ? 島の噂はほんとだったなあ。
男を求める男が毎年やってくる島。
それがこの島、雄音島だ。
噂を聞いたときは、島のあちこちで乱交パーティでも開かれてるのかと、興奮してヘリでやってきたけど、島に一軒しかない居酒屋の常連にならないとダメらしい。で、マスターに紹介してもらった男二人が結ばれる。
だから、俺はその居酒屋のバイトをすることにした。どの世界にも、選り好みする奴やとにかく一回したい奴はいるもんだ。そんなめんどくさい客の要望に応える役目を負ったんだ、俺は。
「お客さん、起きてくれよ」
「いやだ。言うこと聞いてくれなきゃ起きませんよ……」
テーブルに突っ伏す男を揺すった。男の周りにあった、空のジョッキや皿はとっくに片付けてある。
全くビール一杯で潰れるとは。男は目を閉じて寝ている。ずれた眼鏡から覗くまつ毛は密度が濃い。
綺麗な目をしている男だ。彼が来店したときに、俺はそう思った。
その瞳で、とんでもないことを要求してきたんだよなあ……。
「烏丸さん。この前もらったゴムよかったよ」
常連の男が店に入ってきた。椅子に座るや否や、大声で言う。短髪に派手な柄のTシャツに、濃いすね毛を全く気にしないハーフパンツ姿。この島ではユニフォームになっているような格好だ。
「XLで香りつきって珍しかったでしょ?」
俺は客の注文を聞かずに、ビールのジョッキを置く。客は頷くとビールを一気飲みした。
「でかく生まれて幸せだけど、サイズ選びがねえ。ま。嬉しい悩みだけどさ。烏丸さんは、普通サイズで硬さで勝負だからいいよなー。いろんなゴム試せる」
「最近は使ってないけどね」
「へぇ、じゃ、中出し? 泣かせてるねぇ」
「そうじゃないんだ。近頃はみんな平和的にマッチングするから、俺の呼び出しがないの」
「言われてみると、いろんな二人連れを見かけるなあ」
「ま、俺も引退かもね。来年四十だし」
「お、ついにタチ引退か? カラスのひと差しが拝めなくなるのかあ」
俺は曖昧に笑った。
求められれば、誰でも抱いて。ついた異名が『カラスのひと差し』
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