はじまり

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はじまり

起きてまず視界に入るのは 白い天井 白い壁 白いカーテン 白い扉 白い布団 白い枕 白い床 そして、生白い自分の細い手。 大崎歌音(オオサキウタネ)は、ベッドに体を沈ませたまま、右手を天井へとつきだした。 朝起きて、自分の手を見るのは日課になっている。 自分の手を見て、ため息をひとつつくと歌音は、ベッドから起き上がった。 ぱさり、と肩口で切り揃えた黒髪が揺れた。 と、同時にガラリと白い扉が開いた。 「おはよう。歌音ちゃん。」 白いナース服を着たお姉さんが、明るい声で挨拶をした。 「おはようございます。」 歌音は、ぼそぼそと挨拶を返した。 「よく寝れた?」 そう言って看護師は歌音にベージュ色の体温計を渡す。 これも日課だ。 歌音は体温計をもらうと、脇に挟んだ。 「寝れた。と思う。」 歌音が体温計を測っている間に看護師は窓辺に近づくと白いカーテンを開けた。 歌音は首だけを動かして窓を見た。 そこには、灰色の空が広がっている。 雲ひとつないことから、きっと晴れなのだろう。 田舎のグランマのお家で見た空は青色だったのに、ここで見る空は灰色だ。 ピピッと電子音が鳴ったので、体温計を看護師に手渡した。 看護師は、その数値を紙に記した。 「平熱ね。」
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