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お昼になると、お見舞い客が増えるのか、パタリパタリと足音が増える。
だからと言って、この病室の扉が開くことはないのだけど。
歌音は、ぼんやりと灰色の空を見上げた。
入院当初は頻繁にお見舞いに来てくれていた両親も仕事が忙しいということで、なかなか会いに来てくれない。
歌音はぼんやりと白いシーツを見つめた。
「…お家に帰りたい。」
ぽつりと呟く。
呟いたとたん、帰りたい思いでいっぱいになる。
前は入退院を繰り返していたが、今はずっと病院だ。
数値が悪いとかで、退院も外泊もできないでいる。
「ママのケーキが食べたいよぉ。」
歌音の瞳から大粒の涙がこぼれた。
ポタリと、白いシーツに滲んだ。
数年前の誕生日の日は、ママがケーキを焼いてくれた。ふわふわのスポンジにこれでもかというくらいに生クリームを乗せてその上にぎゅうぎゅうに真っ赤な苺を乗せまくって、蝋燭が乗せれないわ。とオロオロしながらなんとか苺と苺の隙間に蝋燭を差し込んでいた。
それを思い出して、歌音は笑ったが同時に涙もこぼれた。
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