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まあようするに、昔から妄想だけはいっちょまえな、夢見る少女だったのである。実際に彼氏がいたら嬉しいと思うことはあったし、片思いなら何度でもあったけれど、自分から行動を起こしたことは一度もなかったのだった。なんせ、極端なコミュ障で、男の子どころか女の子と話すのもヘタクソだったからである。
友達も少ないながらにいなかったわけではない。
けれど、まともに男の子と喋ったことは殆どなかった。それこそ、学校での班活動とかディベートの授業とかでやむなく、といったレベルである。
自分は一生、二次元としか恋愛できないのかもしれない。もういっそその方が現実を見なくて済む分幸せかもしれない、なんてそんなことを思っていた矢先。まさか好きな漫画を描くために入った漫画サークルで、男の子と話す機会ができるなんて想像もしていなかったことである。
きっかけは、私が描いていた漫画のネームを彼――水城要に見られたことだった。
自分で言うのも空しいが、私の画力はサークル内でお世辞にも高いとは言えず、アドバイスを求められた部長をだいぶ困らせてしまっていたのである。どこから何を言えばいいのだろう、とやや引き攣った顔で笑っていた彼女の横から、ひょこっと顔を出してきたのが要だったのだ。
『これ、田淵さんが書いたんですか?』
同い年の相手でも関係なく、誰に対しても敬語で喋る物腰柔らかな彼。本人はオタクだと言っていたけれど、眼鏡をかけていてもなおわかるくらい綺麗な顔をしているなとは思っていた。そんな彼に、私は思わず頷いて、次にぶんぶんと首を振りながら言ってしまったのだった。
『そ、そうです!そ、そうだけどその、凄く下手なの分かってるから、駄目なところ遠慮しないで言ってくれていいっていうか、見る価値もないと思ったらもうそう言ってくれてもいいというか!』
要はイケメンなだけじゃなくて、とにかくイラストが綺麗なことで有名だったのだ。線そのものはシンプルで少年漫画風だけれど、どこまでも躍動感がありキャラがいつでもイキイキとしている。特に素晴らしいのは単純に絵が上手いだけではなくて、コマ割りの技術が高く、どこまでもダイナミックに物語を動かせるということ。このサークル内で悪い意味で浮いているのが私なら、良い意味で頭一つ分以上飛びぬけているのが彼であったのだ。
『自分の作品に対して、そんな風に言うのはよくないです。一生懸命描いたんでしょ?というかネームの段階からすごく細かく書き込んでるし、愛を感じて僕は好きだけどなあ』
『え、え』
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