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遅刻ギリギリで、どうにか電車に飛び乗ったはいいが。なんと、乗り換えの駅で信号機トラブル発生のアナウンス。私は涙目になりながら、遅刻の旨を要に伝える羽目になってしまった。
『ごめんなさい、電車が遅れてるみたい。少し駅に着くの遅くなるかもしれません』
何日も前から、ずっと楽しみにしていた初デート。なのに自分は、自分から無理にお願いしたくせに何をやっているのか。LANEでメッセージを打ちこむ指が震えた。視界がじんわりと滲んでくる。電車が遅れたのは不可抗力とはいえ、それでも私がもっと余裕を持って家を出ていればなんら問題なかったはずなのだ。
一体、何をやっているのか。
姉にも要にも迷惑をかけて、なんて私は駄目な人間なんだろう。
ただでさえ、美人とは程遠い顔立ち、性格も根暗でいいところなんて一つもないのに。本気で彼に好きになってもらいたいなら、普通の女の子の百倍は努力をしないといけなかったというのに。
ひょっとしたらデート前にもうフラレてしまうかもしれない――そんなことさえ思った時、返信が。
『わかりました。大丈夫です、待ってます』
それは、まるで。
『丁度良かったかも。まだ、僕も華雪さんに会う心構えができてなかったので。女の子と一緒にお出かけするなんて初めてだったので、緊張しちゃって全然駄目でした。情けないなあ』
まるで、こちらの不安を全部見通しているかのようなメッセージだった。私が自分を責めないように苦しまないように、全部分かった上で配慮してくれているような。
――なんで、そんな風に気遣ってくれるの。
遅刻を責めないばかりか、丁度良かった、なんて。待ってます、の一言だけでも十分すぎるというのに。
――なんで、そんな優しい君が、私なんかに付き合ってくれるの。
気づけば。
自然とスマホの上で、指が動いていた。
『実は、遅刻した原因はそれだけじゃないんです。本当はもっと早く家を出れば良かったのに、服選ぶのに時間かかっちゃった。そんなの選んでて、結局遅刻して迷惑かけたら意味なんかないのに。本当にごめんなさい。しかも、結局いつもとあんまり変わらない服になっちゃった』
『謝らなくていいです。僕も同じことで悩んでたので、気持ちわかります』
『そうなの?』
『はい。少しでもカッコいい服を着て行かなくちゃと思ったのに、僕は新しい服を買うのも忘れてて。一応頑張って選んだけど、あんまり普段と変わらなくなっちゃって。だから悩む気持ちはよくわかります。お揃いですね』
「……そうだね」
なんだか、似たもの同士だ。自然と、口元に笑みがこぼれていた。
「私達、変なとこ、似てるのかもね」
だったらもっともっと、彼のことが知りたい。彼の良いところに、近づける女の子になりたい。ぎゅっとスマホを握りしめて、私は構内アナウンスを聴きながら返信したのだった。
『今、そっちに行くね。いつも通りの私だけど、それでもいいかな』
十五分後。
約束の駅の改札前で私を待っていたのは、本人の宣言通り、水色のカッターシャツに紺色のジーパンと普段とさほど変わらない服装の彼。それでも充分すぎるくらいカッコ良く見えたのは、恋の魔力というやつだろうか。
「なんだ」
彼は笑って言ってくれた。
「いつも通りの華雪さんが、一番いいじゃないですか」
「……その言葉、そっくりそのまま返すからね」
無理に着飾らなくてもいい。
隣に今、一番好きなキミがいる。
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