姫路城は見ていた

1/10
197人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ

姫路城は見ていた

1  あんなに雲が大きくて近かったひと月前が、嘘のようだ。うろこ雲が空高く広がる日々が続いた。肌に当たる空気は生ぬるい。  結婚して姓が変わり、林田麗子になり、早三ヶ月。結局あんなに大好きだった刑事の仕事はやめてしまった。夫になったのは同期であり、あっさり二十代のうちに警部補まで昇任してしまった林田京介。  彼は警察学校時代から優秀で、教官にも一目置かれていた。  お互いバツイチだから、結婚式は簡単に済ませる。訳にはいかなかった。一応警察官という立場上、警察官の割引がある式場を予約し、警察関係者の同僚、元上司、警察学校時代大変お世話になった教官らを式に呼び、披露宴時はしっかり『踊る大捜査線』の音楽を入場曲に使い、彼も私も警察官の礼服を着たのがつい、この間のことのように蘇る。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!