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彼の紡ぐ音は美しかった。 弾くように、溢れるように、 一つ一つが染み込んでいく。 伝えると彼は笑った、 『君が雫のようだからだろうね。』 私は首を振ることも違う気がして、 『貴方がいるからね。』と返事をした。  彼の周りの音は元気だった。 賑やかで、いつもは静かな彼も一緒に騒いでいる姿を見るのはいつも新鮮に感じた。 時々愛おしいというように周りを見る瞳は、やっぱり彼だった。 『おいで』と私を呼んだ。 『楽しい?』と私は彼に聞いた。 もちろん、と笑った彼が少し寂しそうに見えたのは何故だろう。 ある日、彼は音を紡がなかった。 『どうしたの?』 そう聞いても、私の目前に座ったまま。 『どうもしないよ、少し休憩だよ。』 笑う顔が、こんなに嫌に思うなんて、初めてだった。 突然、彼の音が濁った。 泥水に潜ったみたいな感覚だった。 『苦しい。』 そう伝える。 『ごめん、すぐ修正するね。』 整えられたけれど、何か違っていた。 その日、彼は今までにないほど長い音を紡いだ。 多くて長くて複雑で、 それでも彼の澄み切った音は美しい。 海も川も湖も、全部透明な水に変えてしまいそう。 『すごい』 彼は笑った。 細い手で私を撫でた。 『君のおかげだよ。ありがとう。』 泣いていた。 ポロポロ、雫が落ちていく。 『大事な話が、あるんだ。』 俯きながら、細くなった肩を震わせて。 『おれ、さ。ちょっと、遠くに、いかなきゃ、いけなくなって。』 口を覆って、声を押し殺して。 『君、とも離れなきゃ、いけないんだ。』 どうして、そんなこと聞いてはいけない気がした。 『あんしん、して。君のこと、仲間に、伝えてあるから、これからも綺麗な音に囲まれて生活できるよ。』 私に笑う。 『この音が、おれの、さいごの音。』 今度は震える手で、私を撫でる。 『だから、さ、わがまま、だけど、その綺麗な声で、大事に、歌ってほしいな。』 さいご、その“さいご”がそういう意味なのか、聞きたくも言いたくもなかった。 『貴方のためなら、どんな音でも歌います、だから、聞いててね』 精一杯、歌った。 最後の方は震えていたかもしれない、 それでも彼は満足そうに笑って 『ありがとう』と言った。 『君は、どうしたい?』 彼がいなくなってすぐ、私の引き取り手である人は聞いてきた。 『君が僕たちと一緒に音を紡いでくれるというなら、大歓迎するよ。でも、もしも、』 彼の周りも優しいと、今知ったことだった。 『もしも、あの人の音を望むなら、僕は止めないし、見届ける。…どうしたい?』 この人も悲しいだろうに。 まだ彼がいなくなったことは少数しか知らない、だから余計に大きな負担がかかっているはずなのに。 『…私は、』 ずるい、彼も、この人も。 残された私は彼の姿を追ってしまう。 選択肢を出されたら、縋ってしまう。 『…私、』 美しい雫のような、 透き通った水のような、 貴方の姿を追ってしまう。 『わたし、いきます。』 『うん、わかった。あの人のこと、よろしくね。』 『haい。ariがとう、ごZaireまsiた. 』 貴方はびっくりするかな、 怒るかな。 でもいいのだ、待っててすぐにいきます。 《[投稿]最期の曲です。聞いてください。》 【アバターが削除されました。復元不可。作曲データ保存済。】
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