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「お前ら、待ってろよ」
この世に最後の挨拶をして、深く息を吸った。
情けない。水中で少しでも長く息が出来るように、肺に空気をためておくなんて。幸たちはそんな間もなくあの世へ行ってしまったのだ、俺もそうでなければいけないんだ、と戒めた。
体中にため込んだ空気を、ふーっと全て抜いた。筋肉にこもった力と、どうにも抑えられない心臓の鼓動が、俺を落ち着かせてくれない。
今、これが限界。
腹に力を込めて、息を完全に止めた。
俺は心に決めた。
足に、冷たい海水が触れる。急に水に触れたから心臓に悪かったけれど、そんなものどうでも良かった。近くに、白がかかった丸い生物が見えた。
なんだ、クラゲか。
今の俺が、クラゲなんかを怖がらない。
さあ、いくんだ。
そう思った瞬間、塩っぽい水が俺の口の中を満たした――
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