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長く勤めた職場を辞めて、まるで縁もゆかりもない土地に転職した。
一から新しいものを作り上げて業界に挑戦状を叩きつけるみたいな謳い文句に踊らされ、一族経営のヒエラルキーの〝下僕〟階層に迎え入れられた。
転職する前に築いた地位も収入も投げ打って、長年住み慣れた場所も離れての転職に失敗したと言われるのが口惜しかった。出勤初日以来ずっと、辞めるべきだという警告音が身体中で鳴り響いていたにもかかわらず、三年間働いた。
無職覚悟で戻った先で自分を雇ってくれたところがあった。地獄から救い出されたかの思いがした。しかし、就職してすぐに、長期の雇用はしないと伝えられた。
自分にとって必要ではないと思われたことはしないと心に決めた。
職場での飲み会に参加しないことを指摘され、〝仲間ではない人たちと飲む必要性がないだけ〟と答え、人は寄り付かなくなり仕事はやりやすくなったが、すぐにも三年間の契約は切れた。
契約が切れる前に、起業塾に通った。
講師たちは私のことを優遇してくれた。数か月後、彼らのしていることが起業塾を装ったねずみ講であるということに気づいた。その時に初めて、彼らは私が何を求めているかを嗅ぎ取り、それを与えた見返りに多額の金を手に入れることができたのだとわかった。
講座は残っていたが、塾に通うのはやめた。
もはや誰にも期待しないと思った。いや違う。誰も私のことなど期待してなどいなかった。
私が私であることを、赤の他人が実現してくれることなどない。ーー自分の滑稽さに笑えてきた。
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