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リズミーはトラックが停まる場所場所で、荷台から奔放に足を投げ出しては歌った。そしてその歌に惹かれるようにして多くの鳥や蝶、小動物が近づいてきた。
柔らかで棘の無い声は誰の耳にも響き、誰の心にも留まった。
いつしか荷台はステージと化し、その歌を聴くために人が集まるようになった。誰かがスマホから流した情報により、マスコミが駆けつけることもあった。『神出鬼没のトラックの歌姫』を見出しに、ワイドショーが取り上げる騒ぎにもなった。
そんな中ある夫婦が敦のトラックを訪ねてきた。
コンビニの駐車場で、二人しておにぎりを頬張っていた時だ。
四十代後半と見られるその夫婦は、リズミーを見るなり涙を浮かべてその身体を胸に引き寄せた。
母親らしき女性はリズミーの髪を掻き抱き泣きすがったが、当の本人はぼんやりとしたままだった。
肩までの金髪に近いソバージュを揺らして母親は言う。
ずっと探していたのだと。
あなたはうちの愛する一人娘。
とてもとても大切な一人娘なのだと。
全く警察から電話なんてなかったけどな、と思いつつ敦はリズミーに親の元へ帰るよう諭した。
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