プロローグ

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プロローグ

寒いって言うか、寒さを通り越して痛いんですけど、どうなってるの?。  本当に、同じ日本なのかと、今日初めて北海道に降り立った桜丘泉水(さくらおかいずみ)は、空港からの直通電車を降りた瞬間に、思わず溜息を漏らしてしまう。  自分が、昨日まで生活を送っていた東京とは、まるで別世界である。  一面の銀世界は美しいが、テレビで観て正直憧れはあったのだが、憧れと現実はあまりにも違い過ぎる。  北海道の中心都市にある女子校に、転校する為に、東京から引っ越して来たのだが、予想を遥かに超える寒さに、早くも東京に帰りたくなってしまう。  あんな事がなければ、原因も彼女と別れる事になったのも、全てわたしが悪いのはわかってはいる。  中学生の時に出逢って、付き合う事になったわたしの元彼女。 元彼女の柴田瑠璃(しばたるり)には、結局謝る事も、北海道の女子校に転校する事も出来ずに逃げる様に、わたしは母親のコネを利用して、来週から通う女子校に転校する事にしたのだ。  自分でも、とても卑怯で臆病な人間であるとは思うが、瑠璃に酷い事を言ってしまった事に、勢いで瑠璃とは別れると言ってしまった事に、わたしは自分で自分のした事に耐えられなくなってしまい、母親に泣きついてしまった。  見兼ねた母親が、自分の友人が学園長をしている女子校への転校を決めてくれたのだ。わたしは、自分のした事なのに自分では何もせずに、母親に縋り、最愛の人を悲しませたままに、遠い場所に、女子高生の瑠璃が簡単には来られない場所へと、瑠璃を大切な人を一人東京に置いてきたのだ。   そんな事を考えながら、わたしは今日から住む事になっている、学園から程近いアパートへと向かっていた。  女の子の一人暮らしは危険だからと、母親の友人で学園長でもある旭凛(あさひりん)が、自分は独身だから一緒に暮らしましょうと言ってくれたのだが、さすがにそこまで迷惑は掛けられないので、丁重にお断りをして、一人暮らしをする事にしたのだ。  母親の桜子は、何事も経験だと一人暮らしに同意してくれたので、本当に感謝の気持ちで一杯である。  もし、友人の凛さんと暮らしなさいと言われたら、学園長と同じ家と言う事だけで、わたしは気の休まる時がなくなってしまう。  それでなくても、わたしは成績があまりよろしくないのだから、学園長である凛さんに要らぬ心配を掛ける事になる。 鍵を開けて、部屋に入ると部屋の中まで寒いので、わたしはすぐに備え付けのストーブを点ける。  大家さんが、気を使って灯油を満タンにしてくれていた事に感謝しながら、東京とは本当に違うのだなと思ってしまう。  12月の北海道の寒さを正直舐めていた。ここまで寒いなんて、でもエアコンとは違いストーブのお陰で、部屋が暖まるのが早い。  母親からは、北海道は梅雨がないし食べ物は美味しいし、東京と違って自然があって本当に素敵な場所であると、何度も聞いていたが、母親の話の中でも重要な部分を、わたしは見事に忘れていた。  北海道の冬は、本当に寒いからねと、舐めてたら死ぬからと、何度も口を酸っぱくしてまで、母親が言ってくれたのに、わたしは新しい学園の事や、美味しい食べ物の事ばかりで、本気で冬の雪国の恐ろしさを失念していたのだ。  もし備え付けのストーブがなかったら、明日にはわたしは凍死していただろうと、わたしは本当に考えの甘い人間だなと、こんな自分勝手で、自分の思い通りにいかないとすぐにイライラして、他人に当たってしまう様な女の子と、よく瑠璃は付き合ってくれたなと、よく三年も恋人でいてくれたなと今更ながらに、瑠璃の優しさを思い出しながら、ありがたくストーブの温もりを感じながら、荷物を片付ける。 引っ越し前に、アパートから近いスーパーを調べていたのだが、初めての街なのでスマホのマップ機能を頼りに、何とかスーパーに辿り着いて、買い物を済ませると足早に家に帰る。  昼過ぎに、着いた時より一段寒さが増したのか、かなり厚着をして来たのに、正直寒さで手がかじかんできた。 夕食とお風呂を済ませると、早々に布団に入りながら、来週から新しい学園でやっていけるのかと、瑠璃と別れてからは、自分の思い通りにいかなくても、他人に当たらない様に気をつけてはいるが、それでも直った訳ではない。  こんなわたしを、周りは受け入れてくれるのだろうかと、不安と瑠璃に何も言わずに遠くに逃げて来てしまった事に、後悔しながら泉水はゆっくりと眠りに落ちていった。  
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