馴染めない学園生活

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馴染めない学園生活

新しい学園に転校してから、早一週間が経ったのに、わたしは一向に学園にクラスに馴染めずにいた。  周りのクラスメートが悪い訳ではない。原因は、わたしにあった。  今までが今までだったので、自分の気に食わない事があると、自分の思い通りにいかないと、すぐにイライラしてしまい周りに当たってしまう。  わたしには、そんな悪い癖があるのだ。瑠璃との一件以来、気を付けてはいるが、いつそれが出てしまうかと思うと、これからやく一年半過ごす学園生活の事を考えると、どうしても今までの様に、素直に自分を出す事ができなかったのだ。  そうしていたら、転校から一週間でわたしは、クラスメートから大人しい女の子なんだねと、勝手にイメージを持たれてしまい、そのせいで、クラスメートも必要以上にわたしに話し掛ける事はなかった。 (はぁ〜こんな予定じゃなかったのに)  窓辺の席で、一人溜息を吐いてしまう。   お昼休みになると、何故か学園長がわたしの教室にやって来て、わたしを連れ出してしまったので、クラスメートは勿論の事、まだ片付けをしていた教師までが、驚きの瞳でわたしと凛さんを眺めていた。  そんな視線を背中に浴びながら、わたしは大人しく学園長室に連行される。  学園長室に着くと、凛さんは学園には慣れたかな? と母親と同い年とは思えない程の童顔と子供みたいな声で聞いて来た。  何度見ても、何度声を聞いても、本当に母親の友人で母親と同い年なのかと、疑問に思ってしまうくらいに、凛さんは幼い容姿をしていた。  そんな事を考えながら、正直に学園にと言うかクラスに馴染めないでいる事を打ち明ける。  凛さんは、わたしが北海道にいる間の母親変わりなのだから、学園長云々は抜きにして隠し事はなるべくしたくなかった。 学園長室で、学園長と二人きりでお昼ご飯と言う、多分普通の生徒は経験しないだろう経験をしながら、自作のあまり上手ではないお弁当を突きながら、わたしは正直に転校してからの一週間の話しを、凛さんにする。  ただ話しをするに当たって、母親の桜子に要らぬ心配を掛けたくないので、母親には絶対に内緒にして下さいとお願いする。  凛さんの、優しい微笑みを答えと受け取りわたしは、話し始める。  転校初日は、東京からの転校生と言う事もあって、クラスメートからは注目の的であったのだが、瑠璃との事があるわたしは、上手くクラスメートと話せずにいた。  初日は、きっと緊張しているんだよねと、クラスメートも思ってくれたとは思うが、さすがにそんな状況が、数日も続けばクラスメートも、泉水は大人しくて、人付き合いの苦手な女の子なんだと思ってしまう。  案の定そう思われてしまったが為に、転校して一週間経つのに、友達は一人も出来ないし話し相手すらいないのだ。  元々人付き合いが嫌いな人間なら、その状況を喜ぶのかもしれないが、基本誰かとお喋りをしていたい年頃である。  泉水も、その例に漏れる事なくお喋りが大好きな女の子の一人である。  本当なら、自分からクラスメートに話し掛けて、毎日恋愛の話しやくだらない話しで盛り上がって、楽しい学園生活を送りたいのだが、自分の自分勝手な性格で、大切な人と別れる事になってしまった(正確には、勢いで振ってしまった)のだ。  それ以来泉水は、人と話す事が怖くなってしまった。  自分の思い通りにならないと、すぐにイライラしてしまったり、他人に当たってしまう性格を直せばいいだけなのだが、人の性格とはそう簡単には直らない。  泉水も、直したいとは思うが正直どうしていいのかわからなくて、こうして東京から遠く離れた北海道の女子校に、転校すると言う形を取ってしまったのだ。 「うーん。そっか、なら保健室にいる雪野先生に相談してみたら」  雪野先生? 保健の先生なんだろうか? 転校してから、まだ一度も保健室のお世話になっていないので、泉水には雪野先生がわからなかった。 「雪野先生は、医師免許を持ってるお医者さんよ」  凛さんの話しでは、この学園には保健の先生とは別に、医師免許を持っているお医者さんがいるとの事だ。  緊急時に対応出来る様にと、凛さんが学園長に就任してから、理事や親御さんの同意の元雪野先生に来てもらう様になってから、もう三年が経つらしい。  いくら私立の女子校とは言え、学園にお医者さんがいるなんて、珍しいと思いながら泉水は、雪野先生はカウンセラーなんですか?と聞いてみる。 「カウンセラーの資格はないけど、結構皆んな相談してるみたいだから、相談してみなさい」  母親より年上の保健の先生よりは、まだ30歳の雪野先生の方が、話し易いのもあるのか、学年問わず、教師も含めて雪野先生に相談する人は多いらしい。  この学園は、生徒は勿論の事、教師に至るまで全員が女性と言う、一風変わった学園として、地元では有名らしかった。  年頃の泉水としては、中年の男性教師にいやらしい目で見られるよりは、教師も全て女性の方がありがたい。  言うほどのスタイルではないが、自分の身体は瑠璃にしか見せたくなかった。 午後の授業は、どうしても集中する事が出来ずに、気付いたらホームルームが始まっていた。  真面目に授業を聞くタイプではないが、成績が危ういので、転校してからは授業はちゃんと聞いていたのだが、お昼休みに凛さんから雪野先生の話しを聞いて、放課後雪野先生に相談に行くべきか、それとももう少し自分なりにクラスメートの中に、入れる様に努力してからの方がいいのか、努力しても無理だった場合に相談しに行けばいいのかと、そればかり考えていた。  そして、雪野先生に相談すると言う事は、雪野先生に瑠璃の話しをしなくてはいけなくなってしまう。  瑠璃からは、今でもメールが毎日届いてはいるが、わたしは返事を書く勇気がなくて、瑠璃からのメールに目を通しはするが、未だに返事を送れずにいる。  どうやら、母親からわたしが北海道の女子校に転校したのだけは聞いたのであろう。  北海道はどうですか?。  こちらと違って、そちらは寒いので体調には気をつけてくださいね。  時間のある時でいいので、返事をくださいと言ったメールが、毎日送られて来てるのにわたしは、どうしても返事を書けなかった。今更何て書いていいのか、本当は瑠璃の声が聞きたいのに、何度も瑠璃に電話をしようと思ったのに……聞いてしまったら、きっとわたしは泣いてしまう。  それがわかっていたから、返事を書く事を躊躇っていた。   そんな事を考えていたら、ホームルームすら終わった様で、周りのクラスメートが帰り支度をしていたので、わたしも教科書を鞄に詰めると、取り敢えず保健室に向かう事にする。  雪野先生に相談するかは別として、挨拶くらいはしておいた方がいいだろう。  今後お世話にならないとは限らないのだから、そう思い保健室の扉をノックすると、中から綺麗な声で、どうぞと言われる。  直感的に、雪野先生だと思った。  保健の先生には申し訳ないが、自分の母親より年上の先生が、こんな綺麗な声な筈がないと、綺麗な声の方に申し訳なくなってしまう事を考えながら「失礼します」と一礼してから保健室に入る。   保健室に入ると、黒髪ロングの眼鏡を掛けた美人さんがいた。 「ゆ、雪野先生ですか?」  あまりの美しさに、泉水は緊張しながら何とか声を掛ける。  瑠璃は可愛い女の子だった。  凛さんは、可愛らしい女性。  母親の桜子は、綺麗だけど母親なので緊張は全くしない。  でも目の前にいる女性は、泉水が今までに見た事ないくらいに綺麗な女性だった。  北海道出身なのかはわからないけど、きっと雪国出身なんじゃないかと、そう思わずにはいられないくらいに、肌は白く美しく、きっとこういうのを石膏雪花の美しさと、言うのだろうと思ってしまうくらいに、目の前の女性は美しかった。 「そうだけど、君は? 例の転校生かい?」  例のの意味はわからないが、泉水ははいと答える。 「別に他意はないから、ただこんな時期に転校してくるなんて珍しいから」  雪野先生は、この時期に転校生なんて、まずないから教師の間で話題になっていたと、あっさりと打ち明けてくれた。 「わたしは、学園で勤務医的な事をしてる雪野雪。よろしく泉水さん」 「よ、よろしくお願いします!」  雪の眼鏡の奥の美しい瞳と、優しい微笑みに顔が赤くなってしまうのがわかる。  わたしには、瑠璃って大切な女の子がいるのにと思いながらも、どうしても雪から目が離せない。 「それで、どうしたのかな? 体調でも悪いと言うよりは、クラスに馴染めないって感じかな?」  どうしてわかるの? 凛さんが言うとは思えないしと、わたしが考えていたら雪野先生が顔に書いてあるよと、転校してきてクラスと馴染めませんって、雪野先生助けて下さいって書いてあると言うので、わたしは雪野先生恐るべしと素直に思う。 「保健の先生は、もういないし、他の先生に話す事もないから、わたしで良かったら話してみたら?」  初めて会ったばかりの、雪野先生だが雪野先生になら話しても、相談してもいいと思い泉水は、転校する事になった理由と転校してから上手くクラスに馴染めずにいる事を、正直に話して相談する。  わたしの、話しを聞いていた雪野先生は、瑠璃との事は、わたしと瑠璃の問題だから口を挟むつもりはないけど、瑠璃に返事を書きたいのなら返事を書く。  瑠璃の事を忘れて、前に進みたいのであれば、返事を書かないか、もうメールしないでと言いなさいと、それが瑠璃の為でとあるし優しさであると、アドバイスしてくれた。  瑠璃の事は、雪野先生の言う通りに自分でしっかり考えて答えを出すとして、先ずはクラスメートと仲良くなる事である。 「泉水さんは、クラスメートと仲良くしたいんだよね?」 「はい。でも、過去の事と言うか」  自分の性格の事を考えると、どうしても踏み出す事が出来ない。  雪野先生は、その事も見抜いているかの様に、ならはっきりと自分の性格を伝えた上で、今頑張って直してますと、だから嫌な思いさせるかもしれないけど、よろしくお願いしますと言ってみたらと、あっさりと言う。  話しをしていて、どうも雪野先生は物事をはっきりと言う性格なんではないかと、でもそれが雪野先生のいい部分なんではないかと思いながら、正直にクラスで孤立してしまうのが怖いと告白する。 わたしは、出来るなら常に誰かに側にいて欲しい、話し掛けていて欲しいのだ。  寂しがり屋なのだ。 「泉水は寂しがり屋なんだね」  既に泉水さんではなくて、泉水になっていたが、そこは気にしない。  それよりも、あっさりとわたしが寂しがり屋だと見抜かれた事が恥ずかしい。  そしてやっぱり雪野先生は、侮れない女性だと思う。  出会って30分で、わたしと言う女の子を見抜いてしまうのだから、絶対にわたしには出来ない芸当である。 「寂しがり屋でも、いいとは思うけど、ただ待っていたって、友達なんて出来ないと思うけど」  ある程度は、自分からアタックしなくては友達なんて出来ないと、これまたはっきりと言われてしまう。  それはわかってはいるのだが、どうしても前に進めない自分がいる。 「結局は自分次第だよ。わたしみたく、一人でいるのが苦にならない人間もいれば、泉水の様に誰かに側にいて欲しいと思う人間もいる」  それは、人それぞれであるし、別に寂しがり屋なのが悪いとも、孤独を好む事がおかしいとも思わないと、雪野先生は言う。 「それは、わかっているけど……」  わかってはいる。わかってはいるけど、どうしても一歩を踏みだせないのだ。  わたしは、もう瑠璃の時の様に酷い言葉を言いたくないのだ。  もう悲しい顔をさせたくも、見たくもないのだ。  そんな思いをさせるのなら、わたしは一人でいた方がいいのだと、そう何度も何度も思ったけど、やっぱり一人は寂しくて、自分から知らない土地に逃げて来たのに、それなのに一人はやっぱり寂しくて、とても耐えられそうにない。  わたしは、やっぱり根っからの寂しがり屋で弱虫なのだ。 「別にいいんじゃない。寂しがり屋でも弱虫でも」 「えっ?!」 「だから、泉水が寂しがり屋でも弱虫でも、泉水は泉水でしょ。その瑠璃って元彼女の事だって、クラスメートとの事だって、泉水の速度で解決すればいいって話し」  考えてもいなかった。  瑠璃の事も、クラスメートと早く打ち解ける事も、わたしは急ぐ必要があると、早くしないと駄目なんだと、そう思い込んでいたのに、雪野先生は焦る必要はないと、わたしのペースでいいのだと、そう言ってくれた。  わたしの瞳から、涙が溢れて来た。 「ごめんなさい」 「どうして謝るの? 泣きたい時には泣いたらいいし、泣くのは恥ずかしい事じゃないんだし」  その言葉に、またわたしは救われた気になる。  今日初めて会ったのに、どうして雪野先生はこんなにも、わたしの事を理解してくれるのだろうか? 大人だからなのか、それとも、雪野先生の人柄が為せる技なのかはわからないけど、わたしの心が救われた事だけは確かだった。          
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