本当の正体は

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本当の正体は

「今日は午後から休講だからゆっくり行くんでしょ?」  菜月がソーダを堪能しながら、私に問いかける。 「うん、だから私先に帰るからねー」  そう言うと、立ち上がり荷物を持ち上げる。けっこう重いのよね……このトートバック。気合を入れなおすと、灯弥と菜月に「バイバイ」と手を振り、私は今週もダッシュで駅に向かった。  ❖ ❖ ❖ ❖ 「相変わらず、水無瀬先生も過保護なのよね」  菜月は残った氷で遊んでいる。 「過保護って言うか……あれは『ご執着』されているからかしらぁ」  灯弥はやれやれといった感じで菜月の言葉に付け加えた。 「知ってる? 瑞穗の速攻破局理由」  灯弥は小声で菜月に囁いた。「ん?」という感じで分からない表情をする。 「毎回、ココの大学生じゃない? 水無瀬教授の圧力って噂らしいわよ」 「え? そこまで歪んでるの? まさか~」  冗談かのように聞き流そうとして、菜月は灯弥を見た瞬間。「アタシの情報網を舐めないでよ」と言いニヤリと微笑んでいた。 「確かに……灯弥、アンタの情報網は相当なものだしね……でもそれってちょっとやり過ぎじゃあ」  それについて、灯弥は考え込むように腕組をして、足を組み替えた。 「レースの時、瑞穗を研究室へ迎えに行ったとき、助手にすんごいイケメンいたんだけどーもう教授の空気がピリピリだったのよ。後で瑞穗のテント事件のお隣さんが、そのすんごいイケメンだって知ったんだけど……あれかなりお怒りモードよねぇ」  それを聞いて菜月も「うーん」と考えだした。 「歪んだ愛情が……牙を出さなければいいんだけど、って結論かしらね」  菜月はふっと思ったことを口に出した。 「まぁ、それはそれで今まで安心セキュリティだと、アタシは思っていたんだけど……あれがラスボス並みに厄介なことに気づいたわ」 「やれやれ」という風に灯弥がため息をつく。 「灯弥、アンタも気を付けないとやられちゃうわよ」  菜月は灯弥に向かいニヤリと微笑む。 「あら? 何のことかしら」  灯弥は目を背けるとそう答えた。 「私は瑞穗みたいに鈍感ではないからね。近くで見てるとバレバレよ、その態度。その口調でみんな騙されているけど」  クスクス笑いながら氷を一つ口に含んで食べ始める。 「アタシは用意周到なのよ。時期は見誤らないつもりよん。でも……教授もだけど、あのイケメンは厄介ね」  灯弥がウフフと笑いながら残ったコーヒーを飲み干す。  しかし、その目は笑っていなかった。  それを見ながら菜月は「私は瑞穗が幸せならそれでいいわ」と、かみ砕いた氷を飲み込ながら灯弥を見つめていた。 「今度そのイケメンと水無瀬先生の対戦見に行ってみようかしら?」 「いいわよぉ~まだ教授から私は『敵』認定受けてないから大丈夫だけどぉ……凄いわよ」    二人は示し合わせたようにニヤリと笑う。そのまま立ち上がると飲み終わったグラス等をセルフサービスで返すと、教授棟へ足を向けた。
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