安心感

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安心感

 教授の部屋をノックすると、返事があって開けてくれたのは「噂のイケメン」小鳥遊蓮だった。  菜月は「なるほど……」と唸っている。 「あれ? 二人してどうしたのですか?」  水無瀬は急な来訪者に、バソコンモニターから目を離し応対する。 「あらぁ~瑞穗ここだと思って来たんですけどぉ~、居ないみたいねぇ」 「もう帰ったのかしら」  アドリブで灯弥と菜月が返答する。チラッと携帯を見た灯弥が「あら、瑞穗キャンプだからって帰っちゃったみたいよぉ」とその場を取り繕った。 「ん? 瑞穗キャンプ行くって言ってたの?」  その話題に水無瀬は喰い付いてくる。 「そうみたいですぅー『穴場』へ行くって。詳しくはわかんないですぅ」と灯弥は適当にごまかした。 「私たちもとりあえず帰りますね」  満面の笑みで菜月が一礼をする。灯弥は「またねぇ~」と手をひらひらさせながら、研究室を退出した。  ❖ ❖ ❖ ❖ 「穴場ってどこでしょうねぇ」  困ったように水無瀬が呟く。その空気には焦りすら感じられていた。 「それ俺に聞かれても分からないですよ」  ため息をつきながら、小鳥遊は水無瀬に言葉を返す。 「後で瑞穗に聞いてみましょうかね」  そういうと、あ! と思いついたように小鳥遊を見る。 「今日は小鳥遊くんもキャンプですか?」  それを聞いて一瞬小鳥遊は考え込む。 「その予定なんですけどね、まだ予約していないので確定ではないですよ」 「そうなのですかぁ、キャンプも予約とかいろいろ大変そうですね」  にこっとほほ笑みまたパソコン作業を再開する。少しすると「ピロンッ」とパソコンから着信音が鳴った。それを見ると急に水無瀬の機嫌がよくなり鼻歌を歌っていた。  ❖ ❖ ❖ ❖  私は家に帰ってキャンプ用品の選定を行っていた。  持ち物は最小限に。それでいて過不足無く。と頭で言い聞かせながら準備する。だいたい必要なものはボックスに入れてあるので、一からの手間は無い。  キャンプ用品を車に詰め込んだ時に、携帯にメッセージが入ってきた。 《今日はキャンプ行くんだってね。どこのキャンプ場行くことになったの?》  それは浬からのメッセージだった。そのメッセージに「ダムのところのキャンプ場だよー」と返信する。  そっか、あれから浬くんには言うの忘れてた。でもなんでキャンプ行くの分かっちゃったのかしら? いつも行ってるからそのノリかな? と思い携帯を閉じる。  今日は家にある食材で、パエリア作ろうと思っているので、家から食材をおすそ分けしてもらい……、お母さんに「気を付けなさいよ」と小言を言われ、出発した。  ダムの湖畔のキャンプ場は人がまばらで、週末なのに利用しやすい場所だった。  ダムが一望できる場所にテントを設営し、タープを組み立てる。そして、私は明るいうちから火おこしを済ますと、準備してきたパエリアを調理し始めた。  今日はアルコールは持ってきていませんよ、うん! 前回の失態から教訓を得ましたから。なんて独り言を言いながらパエリアを火にかけて、ティータイムの準備を始めた時、後ろから声がかかる。 「あれ、今日ここでキャンプなんだ?」  聞いたことあるその声に振り返ると……「あ、お隣さん」と呟いてしまった。
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