新宿区歌舞伎町居酒屋の3姉妹と刑事とホスト

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新宿区歌舞伎町居酒屋の3姉妹と刑事とホスト

「…お疲れ様です、新宿署、捜査一課の北島です。番号照会をお願いします…」 桜子から渡された番号を片手に、北島は携帯をかけながら店の外に出た。 「…もう繋がらなかったんだよね?」 「はい、何度もかけ直したんですけど…」 「友達の一人が…って事は、二人以上でホテル住まいって事か…最近多いらしいな、家出してそのまま、年齢確認甘いホテルに住み込む未成年…」 桜子の配信動画を見た後、かかって来た携帯番号を預かると、西は本庁に照会作業を依頼するよう北島に指示し、自信は考え込むように桜子達に話かける。 「この子の話が本当だとして、ヤミで子供の養子…というか取引があって、もし金の受け渡しがあったってんなら、立派な人身売買だよ。その辺についてもこの子には絶対話聞かなきゃなんないけど、更にあの家の事何か知ってるって…?」 「ただ、うちみたいな配信て、結構虚言も多くて。話も中途半端だし何の証拠もなかったから、警察にも行きづらいし、自分だけじゃ判断しきれなくて、杏子ちゃんたちにも相談してたんです。でも、西さんに聞いてもらえて本当に良かった」 「嘘なら嘘でいいよ。こんな目に合ってる子がいなかったでいい」 西の言葉が早いか、北島が店の戸を開けると 「飛ばしです。電源も切ってますから位置情報も」 胸の前でバツを作った。 「やっぱりか。大方売春の連絡用だろうし…もう処分してるかもな…。ご苦労さん、桜子ちゃん…もし、また何か接触があったら…」 「勿論です、すぐ西さんに連絡します」 桜子が頷いた。 「本当は関わらせたくないんだけどな…この事件、なんか…全体にもやがかかってるみたいで…はっきり言って気味が悪いんだよ」 西はお手上げとでもいうように、後頭部をがりがりとかき、ため息をつく。 「…せ、先輩…もしよかったら…」 杏子がおずおずと上目遣いに聞くと、桜子も桃子もそうだそうだというように、首を激しく縦に振る。 「あ~…いや~…お前それはなあ…」 と、隣に座る北島をちらりと見やると、北島も激しく頷いていた。 「西さん、杏子さん達は歌舞伎町の情報通な訳ですし…」 杏子と桃子はいやいや、別に私たちは違う違うと手を振る。 「特に桜子さんは、ちょっと身辺に注意してもらうためにも、状況を知っておいてもらった方が…」 「あっ…そうお……うう~ん…じゃあだなあ…俺はこれから、ここにいる北島と事件のあらましを振り返り…こう…これからの捜査の方針とかを…なんだ、その…」 その時、がらりと扉が開き、二人の男が入って来たので西は口をつぐんだ。 店主が気を利かせ「あ、ごめんなさい。今日は…」と言い開けたその時。 「か…かかか海さん!」 「杏子ちゃん!」 「え?何で何で?ぐうぜ~ん!」 入って来たのは、海とみつるだった。二人とも季節の変わり目らしい軽やかなスーツ姿だったが、ピアスや身に纏った雰囲気で、夜の仕事とは一目でわかったらしく、西が杏子に耳打ちした。 「おい、もしかして、このイケメン達はお前が懲りずに通ってる…」 「こ、懲りずには余計です…で、でも、そ、そうです…一日に二度も会えるなんて奇跡…」 「あ~、海さん…ですか?姉からお話しはいつも聞いてます。桃子です!」 「初めまして、桜子です~!」 「あ、こちらこそ初めまして。クラブギルティの、日本海です。いつもお姉さんにはお世話になってます。こちらは、うちの代表の中庄で…」 そう言ってみつるを見ると、目を丸く、口をぽかんと開けて一点を見据えている。 …えっ… 恐る恐る、海がその視線の先を追うと、そこには… 鋭めのドSチックな顔つき、男らしい眉を敢えて隠すやや目にかかる黒いツンツン髪、笑うと皮肉そうな中に優しさの見えそうな口元…そう、正に恋愛コミックスに出てくる「意地悪なのに溺愛してきます社長」の実写版のような男性が座っていたのだ。 …ままままずい!! 「…きょ、きょ、…杏子ちゃん…こ、こちらのイケメンは…」 えっ?!俺?おいおい、イケメンのプロにイケメンて言われちゃったぞ!どうもどうも~お噂はこいつからかねがね~と、一見冷たそうな外見とは裏腹に、無邪気に喜ぶ姿がギャップ萌えな男性に、焦る海の内心などいざ知らず、杏子は嬉しそうに紹介を始める。 「せ、先輩、ほ、褒められて良かったですね…あ、海さん…みつるさん、さっきはお店で有難うございました!ま、まさかまたお会いできるなんて…えと、こ、こちらは大学の先輩で、西さんと、お仕事の部下の…」 「ど、どうも北島です。」 西でイケメンには見慣れていたはずの北島も、身近に見る夜の匂いの男たちに圧倒されていた。 「あれ…大学の先輩で…って、もしかして…新宿署の刑事さんっていう…?」 「あ、はい、その方です。偶然お店で会って…じ、実は先輩、さっきお店でも話した…あの事件の担当になって…。」 「おま…!民間人に余計な事べらべら言うんじゃねえよ!」 「うう…お、怒られた…でも、歌舞伎町の事なら、お二人に聞くのも…」 「えっ、そうなの?いや実は、俺も杏子ちゃんと桜子ちゃん?にその事で聞きたい事があったんだよ。実は、うちの業界にももしかして関係あるかもと思ってね…それはさっき聞いたK産院事件の事調べて思ったんだけど…」 「あ、そ、それは、桜子ちゃんから私も聞いて…え?何でホストクラブが関係あるんですか?」 「うん…実は…あの、西さん」 西を見て、海が言った 「僭越ながら僕も10年以上、代表は20年近く歌舞伎町で働いてる人間です。ご迷惑なのは重々承知ですが、こちらも情報等分かった事は提供させて頂きますので、今の捜査の進捗など…こう…」 「先輩!海さんはただの民間人ではありません、もともと池袋署の刑事さんだったんですよ!せ、先輩の先輩ですよ!」 「えっ?そうだったんですか?でも、歌舞伎町10年以上って事は…かなり早く退職されたってことですよね…あ、いや、きっと色々おありだったんですね…何かすいません、俺、ずけずけと」 いつもの事ではあるが、うん、そう、いい子だからその調子で追及しないでね。と海は心の中で呟いた。 「しっかし…そうか~あ~、元刑事だしなあ~…先輩だしな~あ~…でもなあ…」 またもやちらっと北島を見ると、先ほどにも増して、激しく頷いている。 「いや、この全員が情報を出し合えば…ねえ?」 「あ~ん~…そっか~……いや…でもなあ…」 煩悶する西の背中を押す様に、店主は静かに外に出ると、暖簾を中に入れた。 店にいる全員からの圧力に、ついに西が 「あ~、もうわかりました!わかりましたよ!」 と白旗を上げる。 では、と海たちも席に着いたが、海はこの件とは別に、自分の隣から西に向かって注がれる、みつるの熱い視線に背筋が冷たくなっていた。 …よりにもよって、刑事さん…西さん、みつる君のドストライクじゃないですか…しかも絶対ノンケ…ドストライクじゃないですか… みつるが20年近いホスト人生を、客との枕営業一切なしにやりきってきた要因は、勿論彼の経営理念が主なものではあったのだが…… なんとみつるがバリバリの同性愛者であったことも大きいのだった。 しかもノンケ、つまりストレートのドSチックな男性ばかり好きになる為、失恋が多く、そのたびに朝まで飲んでメンタルケアに付き合わされる事が、いつしか海の業務の一つかのようになっていた。 …よし、先ずこちらを片付けよう 海は、意を決して話を切り出す 「え、え~と…あ、因みに…桃子ちゃんと、桜子ちゃんは彼氏とか…いるの?」 我ながら話が強引すぎる…案の定、何を突然、と杏子を含め皆がきょとんとしていた。 「え~、リアルにいません~!同世代には金掛かりそうってモテないし、出会いは店しかないし」 「清く正しい引きこもり配信者なので」 そっか~…姉妹揃って美人なのに~…と、二人を見事に布石に使い、本命である西に向かって 「西さんはモテそうですし、彼女いますよね~」 最大限の自然な流れのつもりで聞いた。 「あ~、俺?全然ですよ。こいつは知ってますけど、高校までずっと男子校で、大学入ったらなんか、女と何話したらいいのかわかんなくなってるし、女女してるのもどーも苦手で…」 うん、そういうのやめてええ! みつる君が嬉しそうだからやめてええ!と、一人心で叫ぶ。 「だから、こいつに結婚しようって言ってんですけどね」 そう言って、親指で杏子を指す。 「はい?え、…杏子ちゃん?」 あまりに予想外の西の発言に、海は思わず素っ頓狂な声を出した。 「ううう…絶対に嫌だ…」 杏子が唸る 「なんかもう、こいつしかいないんですよね。だから前から言ってんですけど。」 「えー!西さん、そんなんじゃないって、こないだ言ってたじゃないっすか!」 すかさず北島が異論を呈した。 「付き合ったりじゃねえよ。もう、俺がまともに話せる女こいつしかいねえんだから、結婚できる可能性もこいつとしかねえかなって事で。消去法消去放」 「そ、そんな理由でなんて…断固拒否です!わ、私には…海さんしか…」 「お前ねえ、こちらはお仕事で相手して下さってるんだぞ」 「ううう…事実を言われて辛い…」 「ちょ、ちょ、ちょ…ちょっと待ってください。ま、まあとりあえず…事件の話に戻しましょう!」 想定外の話が続き、頭が混乱し通しだったが、何とか気を取り直して、事件についての話を聞くことにする。 先ず西の話を聞きながら、海は内心密かに、次回絶対に杏子を店外で食事に誘うのだと決意した。
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