新宿区歌舞伎町二丁目ラブホテルの3姉妹と刑事とホスト2

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新宿区歌舞伎町二丁目ラブホテルの3姉妹と刑事とホスト2

「待った、こいつらだ」 言って、西が指さすホテルの事務所のパソコンモニターには、防犯カメラで撮られた映像、駐車場に止まった大型のバンから、大柄の男達が3人足早に飛び出して来る様子が映し出されていた。 「3人…運転手入れて4人ですね」 人数を確認しながら、デスクでパソコンを操作する北島は小さく舌打ちをする。 「この解像度何なんすかね、昭和のパチ屋と同じレベル、ほぼシルエットですよ。しかも一か所、この角度からしかないってんなら、ナンバーなんか映ってないし…」 「科捜研でもっかい調べてもらうけど…これじゃあな」 現在、都心部にあるラブホテルの多くは、オーナーが運営会社に営業を任せていたり、会社組織化しているところがほとんどであるが、ここは今となっては数少ない、古き良き家族経営ホテルであった。 2011年の法改正によって、新規に建てる・改装するラブホテルはいずれも風営法では許可が許されず、すべからく宿泊業で許可を取らねばならなくなった為、調理バンケットの設置や、対面カウンターでの接客が義務づけられているのだが、ここは昭和40年代からやっているとの事で、未だにカーテンの閉まった小窓の間から客に鍵を渡すシステムを継続しているという。 よって、受付を担当するオーナー家族に聞き込みをしても、言わずもがな客の風体は全く預かり知らぬとの事だった。 「だよなあ……てか、こいつらやたらでかくないか?」 言いながら、西は人差し指と親指を画面に当てて、倍率を図った。 「身長もですけど、体つきもかなりいいですよね」 後ろから見いた桜子も、画面に顔を近づけて顔をしかめる。 「全員身長180以上は余裕でありそうだけど…顔は目出し帽かスキー帽か…なんか被ってて全然わかんないな…」 「確かに。ついでに運転してる人間も、影になってさっぱり見えないっすね……」 「いいや三郎、続き再生して」 画像が動き出したが、絶望的に見づらい映像では男たちの詳細はおろか、車の車種さえ割り出せるか怪しかった。 車から走り出て、見切れて映っていないが、男達が向かったのは非常階段であろう。手に大きなスポーツバッグのようなものを持っている男が一人。 ここに様々な道具が入っていたものと推察される。 侵入経路は既に現場検証で明らかになっていた。 非常階段に真新しい29~32センチの足跡が見つかったのだ。 「車、すぐに出たな…早送りして」 男達を降ろすと、すぐに車は発進して駐車場を出てゆく。 その後早送りする事30分程度で、また車が戻って来た。おそらく事が終わった連絡を受けて、迎えに来たのだろう。 運転席から男が一人降りて来る。 「…こいつは、普通体系か、じゃあ多分…あの足跡の主だな」 非常階段には3人の大きな足跡ともう一つ、28センチの足跡があった。 やはり顔を隠し、カメラに背を向ける姿勢で降りたため、容姿や髪型はさっぱりわからない。 案の定非常階段の方に向かい、それから15分程度でガラガラスーツケースを4つ、よく見るとさっきよりやや膨れたスポーツバッグを持って、男達が車に乗り込む姿が映しだされた。 「ほらやっぱり!ガラガラ4つ!もう一人いる」 桜子が思わず声を上げると、西や北島、みつるもおお、と小さく歓声を上げた。 「…赤ん坊はここに入ってそうだな」 全員に一瞬重い沈黙が流れる。 「女の子達を殺して、部屋中拭き取り、携帯や荷物をまとめて…てか、何で赤ん坊を連れて行ったんでしょう」 北島が呟いた。 「…見せしめなら、こういっちゃあれですけど、赤ん坊の死体とかもあった方が…インパクト強くないですか?多分、バッグに入れられて静かってことは、こいつらが殺したのか、既に死産だったのかはわかんないですけど、この時点で死んでた可能性が高いような…わざわざさらってく理由が見当たらないと思うんですけど…」 「この事件に、もう一つ目的があったからでしょうね」 先ほどから静かだった杏子が口を開く 「二つの、別々の依頼かも。ひとつは見せしめにしたい勢力、もう一つは…例えばDNAから赤ん坊の情報を知られたくない人間。おそらく父親」 「依頼とか勢力って…どういう意味だよ」 「彼らは雇われたプロですよ。…でも、チャイナやフィリピンマフィア程こなれてもいない。歯の砕き方も女の子への扱いも、服が破けるほどもみ合うなんて私からすると力任せで雑過ぎ。体格から見ても……彼らは恐らくナイジェリアマフィアです」 目を細めて、男達が映るがモニターを凝視しながら、私来週親知らず抜くんですよとでもいうように、こともなげに話す杏子に、全員が沈黙するしかなかった。 現時点で杏子の弁が有力な事は、全ての状況が証明していたのだから。 「ごめんなさい…どうも」 その時、事務所に桃子に支えられて海が入ってきた。 「海ちゃ~ん、大丈夫?今日そんなに飲んでたっけ。俺の覚えてる限り杏子ちゃんと、ルイ君の席のヘルプしただけだったような…」 「最近さ」 「うん?」 「仕事前サプリ飲み始めたんだよ」 「あ~、俺ら中年ホストはな~」 「うん、そう、色々…あるじゃん。それが海外のなんだけど、よく考えたら飲んで数時間酒飲むなって書いてあったような…」 「あぶねえな~!病院行く?」 みつるをはじめ、皆から海に注がれる心配の視線が胸に痛かったが、ここはそれどころではないと気持ちを切り替える。 「ううん、もう大丈夫。ごめんね、心配かけて。皆さんもすみません、お役に立つどころかご迷惑をお掛けして…」 「そんなそんな、こちらこそ…あ、海さん、出来れば…でいいんですが、この画面の確認と…ホストの名刺ってご確認いただけましたかね?」 西と北島が、恐縮したように頭をぺこぺこと下げた。 「あ、はい…さっき桃子さんから大体のお話しは伺ってます。もう一件殺しもあったって…。しかも、さっき話したうちのホストが関係してる可能性強くなってますよね…」 「?何で?うちの名刺は無かったよ」 「いや、みつる君…池袋の…」 「……バックスペースか!」 海は頷き、昔取った杵柄と、慣れた手つきで手袋をはめ名刺の束を繰ると、中から三枚の写真付き名刺を取り出す。いずれも派手に装いながら、どこかあか抜けていないホストだった。 「…遼はいないな」 「蓮君が、池袋で一緒だった頃とかなり顔が変わってるって言ってたよ。整形したんじゃないかな」 「あ~、鼻と目はやってる感じだったな。カラコンにメイクもしてるし」 その後海は、防犯カメラの画像を確認したが、遼かどうかは判別が難しい。 「足跡…大きくないものがあったんですよね、何センチでした?」 「28です」 北島が下に置いた手帳の記述を見ながら答える。 「28?…違うな…遼は26なんだよ」 ギルティでは、イベントなどで衣装を注文することもある為、大まかな体のサイズを入店時に控えていた。 「じゃあ誰なんだよ、こいつ…」 みつるをはじめ全員の視線が、粗い画像に映し出されたシルエットに注がれたその時、ふいに桜子が窓辺に立つと、閉められたカーテンを外から分からない程度に細く開け、まんじりともせず外を見続けた。 「桜子ちゃん、何してんだ?」 西が杏子に尋ねる 「ヤジ馬の顔を記憶してるんです。あの子…」 「あの特殊能力ってやつか!」 「そう、一回見たものを全て記憶できる…」 「えっ?凄い!そんな人いるんですか?」 北島が思わず驚きの声をあげると、桃子にしっ、「外、結構人数多いから、集中させてあげて」と小さくいさめられた。 こういう能力の人って人口の一定数いるらしくて、海外では…と小声で杏子が説明を始めると 「終わった」 桜子がカーテンを閉め、目を揉みながら窓から離れた。 「勿論、あの中にいる保証はないけど…もう一人の子や、運転してた男…。とりあえず、もう一度見たら確実にわかるから。」 ほんとかよ…すげえなと、また北島が呟く。 「何の手がかりもないよりましだよね……兎に角、今は凸者の女の子を探さないと…」 ああ、犯人より早く…と西が後を継ぐと 「殺されますからね」 玉ねぎ相変わらず高いな とでもいうような口調で杏子が言った。
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