新宿区歌舞伎町ホストクラブギルティの犯人と元刑事ホスト2

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新宿区歌舞伎町ホストクラブギルティの犯人と元刑事ホスト2

「全部知ってんすね?やばくないすか、海さん。もっとのんびりしてる人かと思ってたのにな~」 「馬鹿だと思ってたの間違えだろ。君が遼君に疑いを持たせるために、みつる君を選ばなかったのは正解だよ。彼なら即、つてを使って前の店を調べただろうからね」 そう、それを思うと何も気づかなかった、怪しまなかった自分に嫌気がさす。 「まあ、ああいっとけば、とりま時間稼ぎにはなるかな~、ぐらいだったんですよ。だって、あいつも鬼枕してたのは同じだし…ワンチャン、リサとやっててくれて、子供があいつのだったらな~とか。あいつも俺も整形してて、向こうはまだ気づいてなかったみたいですし」 不自然に白い肌、高く細く伸びた鼻、くっきり幅が同じ二重にグレーのカラコン。以前の姿は知らないが、確かに全体的に作り込まれた顔立ちは、遼と同じ匂いがする。 「…何で、店以外で、トー横や広場で女の子を…」 蓮は、あーと面倒そうに唸ると、小首をかしげ、上目遣いに海を見た。 「ま、あれっすよ。雑所得?副業?しよっかな~、って。もったいないじゃないですか、ガキの処分場はフル活用しないと。ぶっちゃけ、池袋でかなり稼いでたんですよ、でも歌舞伎には池袋時代の客はほとんど切って来たんで、新しく客掴むまでの副業…?のつもりだったんす。あ、ルキって好きなアニメのキャラから取って…」 そこで、上からガタガタ!と大きな音が響いた。 事務所で一連のやり取りを、新たに取り付けた警察の好感度カメラでモニタリングしていた西が、もはや我慢ならず飛び出そうとするのを、東谷、北島、南田の3人がかりで一言も発さず、押さえつけていた。 西の目は、今にも飛び出さんばかりに見開かれ、顔色は怒りのあまり赤黒い。 食いしばった口から激しく洩れる息は、震えている。 「何すか、今の音」 「さあ…ハクビシンじゃない?最近多いから」 そうなんすか?と訝しげに上を見上げる蓮に、カブサクに相談しきた小学生女児の事、更にその後のやり取りも知っている。その時の声で、蓮とルキが繋がったと話した。 「あー、カブサクね、あいつマジうぜえわ。急に電話変わりやがって、録音してるぞとか…くそむかついた。おかげで副業できなくなるし…お前何様だっての。顔出ししてねえけどぜってークソブスニート」 ガタガタ!!とまたもや上から大きな音。 やはりモニタリングしており、今にも飛び出さんとする桜子を桃子、杏子が無言で羽交い絞めにしていた。 浮いた足が激しく空を泳いでいるが、理性はまだ切れていない異様で、こちらも無言で目を見開いていた。 顔をしかめて上を見上げる蓮に 「ハクビシンだね。うん、これは親子かな」 と、海は真顔で淀みなく言い切った。 「てか、何でどいつもこいつも妊娠するんすかね、トー横とか広場で拾った女の子のうち、何人かはほんとに出来ちゃってて…いつもの癖で俺たちの為に、今は育てられないから、生まれたら養子に出そう、つてがあるから…とか言って。女探してるときに顔見知りになったガキとかもいるから…まあ、ああやって生まれた子供さらわれて、関係者みんな死んでるとなったら、所詮ガキだし…ビビッて余計な事警察に言わないんじゃねえかと思ったんすよね。あ、案の定街のガキどもからは何も聞き出せなかったでしょ?俺の読みはだーいせーいかーい!ってね」 最早かける言葉も見つからず、海はどこか意気揚々と事の顛末を話す蓮を、ただ見ている。 その視線に気が付き、蓮は一瞬黙ったが、気を取り直したように、沈黙を恐れるように、すぐまた口を開いた。 「…俺、フィリピン人で親父6人いるんすよ」 意外な言葉に、海の表情が変わるの感じると、更に言葉を続ける。 「わかんないでしょ?肌も白くしてるし、もともと日本人っぽい顔立ちだったし。ま、あとは整形」 どこか違和感を感じた顔立ちは、そもそも異国の者でもあったからかと、合点がいった。 面接の時の名前を思い出したが、性も名も日本のものだった。国籍は完全に日本人であるらしい。 「親父が早くに死んで、生活の為に母親がブローカーに頼んで…俺が13の時10歳の妹と日本に来たんです。偽装結婚。ただ、相手が質の悪いヤクザくずれのジジイでね…」 言って前髪を掻き上げる。 「朝も昼も、おふくろとヤッてる声をわざと聞かせるんですよ…しまいには、まだ子供の妹まで…」 やだ、嘘…と事務所で桃子がモニターに向かって、思わず声を上げた。 「俺ももう力がついてきた頃、殴ろうとすると日本に居れなくするぞって…そう言うとおふくろが止めるんですよ。俺もフィリピンには帰りたくなかった…住んでたのちょっと田舎の方だったんすけど、屋根はねえし、壁は破けてるし、トイレの水も流れない。学校に行ってない連中も多くて、ストリートチルドレンなんてそこら中にいた」 あいつらに比べれば、日本のトー横のガキどもなんか我儘なピクニックしてるみたいなもんですよ、と吐いて捨てるように言う。 「おふくろは、何年かしてブローカーとの契約が終わるとすぐに離婚しました。でも、結局日本で生きてくためにはまた男を探さなけりゃならなかった…まあ、全員最初の日本人と似たり寄ったりで…結果、実の親父を入れて6人。」 間違ってないよな、とでもいうように指を折って数える。 「家も地獄でしたけど、学校も地獄でね。行けばいじめられるから自然と行かなくなりました…毎日毎日、日本人への恨みが積もっていくばっかりで…それなのに…」 今まで、どこか茶化すように、誤魔化す様だった口調が、重いものに変わった。 「…おふくろは…親父の違う子供妊娠するたんびに、産みやがるんですよ。カトリックでね。中絶は禁止なんです、フィリピン。ここは日本なのに、おふくろ神信じてるもんで。3人産んだんですけど、まともに育てられなくて、皆施設に入れちゃいましたよ。ほんと意味わかんねえ、って思いましたね。神って、産んだらいいよ、育てなくってもいいよ、自分もまともに食えない生活なのに産まなきゃだめだよって言ってんすかね。だったら、女は産む機械だ。ボコっと産んだら、神様のお言いつけ通り。その辺に捨てても産んだんだから無罪放免」 「………」 「生まれて俺みたいな思いすんだったら…赤んぼうの内に死ぬのは…殺してやるのは」 「…もういい」 「女どもも、やたら妊娠したがりやがって…どうせまともになんか育てられないくせに…次は育てようね、いいパパになってよねとか…笑えるのが、俺との子供産んで、俺が里子に、ってやった後、すぐにまた店来るんすよ。またウリで稼いだ…」 「やめろ」 「まあ、俺だけじゃないしね、皆ホストたるもの、ギリギリまで女だまして…」 「やめろって!!!!!」 声に驚き、蓮は海を見ると 泣いていた 「…よせよ」 「…君が可哀想だ」 「あんた…あんたそういうところが…」 「間違いなく…君や…君の妹さんは…本当に可哀想だ…同じ日本人として…そういうことをした奴らを恥じている…」 「だから?…ハハ、許してくれるって?」 「…不幸な生い立ちは殺人の免罪符じゃない」 「……」 「…君の罪はね…自分の不幸を周りに振りまきたくなってしまった事だ。こんな目に合った自分は、こいつらにそれをしてもいいんだと、その資格があると…はき違えてしまった事だ…」 蓮は、流れる涙をぬぐおうともせず、顔を上げて、真っすぐ見つめる海の目を見つめ返したが、すぐにその視線を外した。 上階から足早に降りて来る複数人の足音が聞こえ、西達が入って来ると、蓮は大人しく逮捕された。 「よくいるんです」 気が付くと、横に杏子が気づかわし気に寄り添っていた。 「ブラジル、フィリピン、ネパール…見た目で違いのわかる貧しい国の子供たちは、日本では多くがいじめや差別に合います。親が日本語を話せない事も多く、家庭でのコミュニケーションも希薄になって、家でも学校でも、大人になっても孤立して…若い海外マフィアの多くはそういう生い立ちでした…みんな日本を恨んで…でも、ここで生きていかなくちゃならないから…」 「うん。あ、な、泣き顔なんて…いい年して恥ずかしいな…ちょっと顔洗ってくるね」 小走りで手洗いに向かう海の後姿を見つめ、杏子は一つため息をつく。 「…これで半分は終わったな」 いつの間にかいた西が疲れた声を出した。 「え…?」 「いや、だから…骨の犯人」 「え…まだ捕まえてなかったんですか?!…まあ、状況証拠しかと言えば…」 「えっ?何?お前めぼしついてんの?!」 「だって先輩から捜査の話居酒屋で聞いた時…その人しか普通いないじゃ…あ…、でも先輩も会ってはいないか…え、ええー、まだ終わってないんですか!この後海さん誘おうと思ってたのに…!」 「いや、お前…今日はやめろ。海さんも心がへとへとだ」 「だって、海さんの方から…この事件が終わったら、ごはん行かないかって…」 ぶつくさと、ふてくされる杏子に西は苛立ち 「だから終わってねえよ!誰だよ、お前の言う犯人って!」 と、思わず声を荒げた。
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