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新宿区歌舞伎町ラブホテルの少女達
「生まれた!生まれたよ!!」
赤黒くぬめりとした薄い膜を持った赤ん坊が、リサの足の間から出てきた。
「いや、怖い!きもい!」
「うるさいよ亜弥!いいからタオル!え、えっと……次…ど、どうするんだっけ…」
美紀は、赤ん坊を受け止めた血まみれの手で、携帯を操作しようとするがうまくいかず、舌打ちをした。
「タ、タオル!…うえええっ!マジで吐きそう!キモ過ぎ!」
バスルームとトイレの換気扇を最大にしても、部屋には血と体液の匂いが充満していて、軟弱な亜弥でなくとも確かに吐き気を催す。
だが、今はそれどころではない、子供が生まれてきたのだ。
見ないよう顔を背けながら、亜弥が渡してきたバスタオルで先ず自分の手を乱暴に拭くと、赤ん坊を急いでくるむ。先ほどまで開いていた<出産の流れ>というサイトを開いた。
「ええと…お湯に漬けて鼻や目の周りの…あ、あれ…これ何て読むの…」
傍らで口に手を当てて、顔をしかめている亜弥に画面を見せる。
「…尾……へそのおじゃない?!」
「あ……こ、これか」
赤ん坊の臍から伸びた干からびたような管を震えながら掴む。
そこで気が付いた、赤ん坊が息をしていない。
「え…え、嘘…だめだよ、だめだよう…」
美紀は血の気が引くのを感じた、その時
「…どしたの……」
消え入りそうな小さな声で、リサがベッドに寝たまま首をこちらに傾けた。
顔は青白く、目も虚ろだ。
リサは極度の偏食で、お菓子しか食べられない。
特に好きなのはグミで、主食だったが、妊娠してからは栄養が偏ると、じゃがりこにお湯を入れたポテサラばかりを食べるようになった。
明らかな栄養失調だったのか、臨月が近づくにつれ、髪はばさばさになり、肌色も悪くなり、貧血でまともに歩くこともでき無くなった中での出産である。
「あ、あのね…」
赤ちゃんが…と言おうとしたとき、リサがまた苦しみ出した。
「うあああああ!痛い!いた…い」
顔中から脂汗が噴出し、足の間からはどろりとした大量の粘膜と血が噴き出した。
ー後産だー
事前に読んだ出産のサイトで見た。子供を包んでいた胎盤が産後に出てくるのだと。
でもこの出血は?多すぎない?!
リサの寝ている腰の辺りは最早血の海だ。シーツが吸い取り切れず血は下にしたたっている。
「う、うえええっつ」
亜弥がトイレに駆け込んで吐いている。
リサはタオルに包んだ赤ん坊をカーペットに置くと、リサの額に手をやった。
「リサ、ねえ、リサ、だめだよ。」
がたがたと小刻みに震える体。目の焦点が既に合っていなかった、そのうちすぐに白目を剥き、歯を異常に食いしばる。
「だめ…だめえ…お願い…リサ…」
一回大きく痙攣をすると、リサはそのまま動かなくなった。
美紀は死んだリサの肩に額を付け、むせび泣く。
長く顔を上げる事ができなかった。
「ど、どうするの…これから…」
どのぐらい時間が経ったのか、いつの間にかトイレから出てきていた亜弥は、目を真っ赤に泣き腫らし、しゃくり上げながら聞いてきた。
周りを見渡せば、ラブホテルの一室に、大量の服に靴、化粧品と散乱した荷物。
そして血だらけのベッドにリサと床には赤ん坊の遺体。
呆然と働かない頭を何とか動かし、美紀は死んだリサの携帯を手に取った。
「…電話…しなきゃ…」
リサの親指を指紋認証に当て、ロックを外すと目的の名前までラインの履歴をスクロールしだした。
やがて、ライン電話に出た相手はリサと子供の死を聞くと驚きを隠せない様子だったが、すぐに向かうと言って電話を切った。
美紀は開いたままのリサの目を閉じると、横に赤ん坊の遺体を置いた。
「…よかったねえ…パパ来てくれるって…どっちにしたってお別れだったけど…」
そういうと、壁にもたれて座り込み、これからどうしよう…このことがばれたら、ホテルから金銭を要求されるだろうか…まあ、あの人がきっと何とかしてくれる…と、頭の中で考えを巡らせた。
いつの間にか亜弥が隣に座って泣いていた。
姫カットの頭を肩に寄せると、その暖かさに今までの緊張がほどけていく。
まるで今日初めて息をしたように感じる。
その時、部屋のドアがノックされた。
フロントから連絡がないという事は非常階段から上がってきたのだろう。
ここは非常階段に防犯カメラがないことが界隈では有名なラブホテルで、一人が部屋を取ればその後何人でも入り込めるため、美紀たちのような少女達には都合が良かった。
ドアを開けると男達がなだれ込んで来た
全員目に光が無かった
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