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新宿区北新宿の配信者
「今日も元気に!憑りつかれてませんよ~!はい、心霊追っかけチャンネル八雲です!」
配信が始まると同時に、コメント欄には流れるようにコメントが次々入ってくる。
登録者数157万人 心霊系ユーチューバーとしては1.2を争う人気の八雲が生配信をするとのことで、平日夕方というのに既に閲覧者数は1万人を優に超える勢いだ。
<やぽ>
<おつおつ>
<始まったか~>
軽い挨拶が流れる中で
<今日の為に仕事休んじゃいました~>
とのコメントに気づき
「こらこら、それはあかんやつ。てか完全に今日の配信外せないやん」
コメントに軽く突っ込みながらカメラで自分の後ろの建物にを映す。
10月の夕暮れの鮮やかな夕焼けに、その家はくっきりとした輪郭で佇んでいた。
狭い間口に建物全体の幅も狭く、よって縦長に見える一軒家。
昭和の戦後程なくの建物らしく心霊系にはありがたいさびれ具合だ。
隣の廃墟もカビと枯れた蔦に覆われてまるで黒い要塞。
今は夕焼けが明るく照らすが、間もなく日が沈めばそれはそれは雰囲気が出る事だろう。
ここは新宿区北新宿の住宅街
バブル期の地上げを免れた昭和の家々が残っている。
「え~、前回の配信でお伝えしましたが、最近は廃墟なんかも撮影許可が難しくなってきてまして。こうなったら自分でいい感じの家、つまり霊が出そうな家を借りちゃえ!という事で。本日生配信にて、皆さんに初お披露目となります」
言いながらカメラで家の全体を映していく
<おお~>
<やばいね>
<雰囲気あるっちゃある>
<ワイの実家ぐらい古い>
「僕も内覧の時以来今日が二回目でして…まだ家具なども前の住人の方の物がいくつか残ってるんです。では、入ります。いや~、憧れてたんだよな~ルームツアー」
玄関を開けると狭いタタキ
わざとらしく磨きあげられたてかてかとした木目の廊下が突き当りまで伸びている。
両側にそれぞれドアと引き戸があり向かって右は手前からトイレ・洗面所・風呂。
左には台所・八畳程度の居間がある。いずれも昭和な造りで、どんなに磨き上げられても取れない、長年のくすみやハゲが水回りはやはり目立っていた。
<普通なのに怖い>
<てか古いだけじゃない?>
<深夜検証ライブ希望>
案内中もコメントが尽きることはい。
「え~、じゃあそろそろこの家の噂を…おっと、あ~、これは前の住人の方のものですね…」
こういうの雰囲気ありますよねと言いながら八畳の居間にある低い戸棚を膝をついてすらりと開けた。
中を映す。
「…あれ?」
片方開いた引き扉の奥に小さなビニール袋がぎゅうぎゅうに詰まっている。
「何これ」
一つつまみ出すと、透明なビニール袋にみっちりと白い粉が詰まっており、口は方結びできつく縛られていた。
<やばばば>
<白いお粉やん>
<お巡りさん!こいつです>
<さすが新宿>
コメントが一気に湧き出す。
「えー!!マジで?!これはやばいこれはやばい!!これYouTube的に写したらあかんやつかも!!みんなちょっと待って!」
カメラを下に置いたのだろう、画面には畳と砂壁、画面の右端に戸棚の角が見切れて写っている。
<どしたどした>
<通報する?>
<八雲たんみして~>
「うわ…奥にまだめっちゃある…まてまて…」
サシャサシャと薄いビニールの擦れる音がする。
「え~何だこれ…ちょっとマジ…頼む…小麦粉であってくれ~…もう、こうなったら一つ開けてみます」
八雲の緊張と反比例してコメントは凄いスピードで流れてゆくが、画面はビニールを開けるサッ、サッという音とあ~、え~…という低い呟きが聞こえているのみだった。
「ん~…これちょっと…たぶんおクスリでは無いようなので…見せます」
画面に掌が映った。
そこには灰色がかった粗い粉体が乗っている。
ところどころ塊もあるが、結晶のようなものではなく、断面がギザ状だ。
と、暫く完全な沈黙が流れ
<どした>
<八雲たん>
<おーい>
<視えたか>
<喋れて>
<どったどった>
コメントが様子を伺うるようにゆるゆると流れる。
「あれ…俺これわかるかも…ちょっと待って…」
掌の灰を指で撫ぜた
「…俺……こないだじいちゃんが死んで…葬式やったんだけどこれ………これその時…」
<遺灰!?>
<それ遺灰やん>
<遺灰やぞそれ>
<遺灰>
<遺灰>
<遺灰っぽくない?>
<遺灰>
<遺灰遺灰遺灰遺灰遺灰遺灰遺灰遺灰>
<遺灰…じゃないよね?>
<遺灰>
コメント欄が今日一のスピードで流れだす。
震える手から灰色の粉が落ちていった。
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