終幕

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終幕

警備隊との決戦が幕を下ろし、歓楽街の復旧も開始された凡そ三日後。澪士はカルネージの本部で幹部会議を開き、全被害報告を受けた。報告は以下の通りである。 死傷者数三千五百二十人中二千八百三十五人。 カルネージ管轄区域三百二十棟中百十棟全焼。 他被害については只今確認中。 此度の決戦ではカルネージ側も警備隊側も著しい被害を出し、失った力の回復には約三年程度の期間を要すると演算結果が出ていた。特に警備隊は今回の件の揉み消しに奔走しているようだ。だが、警備隊隊長梅屋敷紗枝を失った今の彼等ではそれも手間取っているに違いない。 彼女は今のところ失踪という形に落ち着いた。どれだけ捜索しても死体が上がらず、警備隊側は一縷の望みに賭けて失踪中と世間に公表しているのだ。新の報告によると紗枝はかなりの重傷で生きている可能性はほぼ零とのことだったが、誰も死体を見ていない以上確定はできない。 警備隊に拉致されていた音羽の母親も新が無事に保護し音羽の研究所まで送り届けたらしい。これでこの決戦は本当の意味で幕を下ろすことができた。被った被害を鑑みると割に合わない痛手ではあったが、それでも二人を助けられた結果は大きい。今はそれで良しとするべきだろう。そんなことを考えながら応接室のドアを開けると冬華、美晴、新の三人が澪士を出迎えた。 「あ、レイ。もう会議終わったの?総代は大変だね~」 「お疲れ様です、登坂先輩。本来なら私も会議に立ち会うべきだったのですが…」 皆が皆、思い思いに声をかけ最後に冬華が澪士に向かってコーヒーの入ったマグカップを差し出した。 「ちょうど今、淹れたの。良かったらどう?」 「あぁ、悪いな」 澪士は冬華からカップを受け取ると一口飲み、そして小さくポツリと呟く。 「…良かったな」 「…っ!」 その言葉に冬華は瞳を見開いた。が、即座に頷き、ゆっくりと口を開く。 「…もう二度と、離れないから」 そう言って冬華は花のような笑みを見せる。その笑顔は美晴のそれととてもよく似ていた。
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