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封印された異能力
「さて、俺に聞きたいことがあるんだろう?言ってみろ」
「…姉さんについて、貴方の知っていることを全て」
少し踏み込み過ぎたかとも思ったが、澪士は気分を害した風もなく意外なほどにあっさりと質問に答えた。
「美晴は俺の後輩だ。帝国学院卒業後に仕事が欲しいと頼まれて簡単な雑務を任せていた。が、六年前に仕事を辞め、美晴は警備隊に入隊したらしい」
「らしい?」
「その後の足取りが掴めていない。警備隊の制服を着て街を歩いている姿を目撃した者がいるからというだけの、単なる憶測だ」
冬華は僅かに目を伏せ、思考する。一先ず、ここまでの澪士の話に嘘はないだろうと冬華は判断した。
(でも、何で姉さんは警備隊に…?)
それが一番の謎だ。姉の行動には全て何らかの意味があると、冬華は思っている。だがそれが何なのか冬華には分からない。
「俺から話せるのはこれくらいだ。次は此方から質問させてもらう。あの日、お前は美晴に何か言われなかったか?」
あの日、とは言わずもがな美晴が失踪した日のことだろう。冬華は正直に話すか多少迷ったものの、何か分かるかもしれないと思い一通りの出来事を澪士に話した。
「なるほど…確かにそれは美晴の異能力と見て間違いないだろう。問題は何を封印されたかだが…」
美晴の異能力は、この世のありとあらゆるものを封印する能力。それは間違いない。そして冬華は、封印されたものを既に知っている。
「これは私の憶測だけど、封印されたのは私自身の異能力だと思うわ。封印を施されたあの日から使えないの」
「…そうか。だが、封印の件は此方でどうにかできるかもしれない。知り合いに、研究所と通じている者がいる。完全に解除することはできなくても、一時的に封印を解除できる可能性は十分にあるだろう。無論、判断はお前に任せるが」
冬華は僅かに逡巡した。危険な誘いではある。だがここで躊躇しているようでは、一生このままだ。
「分かった、解除してもらいたい。それが姉さんを見つけることに、繋がるのなら」
冬華の言葉に澪士は一つ頷くと口を開いた。
「なら、その件は俺たちに任せてもらって構わない。…それでお前はこれからどうするつもりだ。此方としてはお前にも協力してもらいたいところだが…まぁ、強制はしない。危険だからな」
澪士の瞳は真剣で、その言葉が本気で冬華の身を案じているものだと否応なく実感する。それさえ分かれば、もう十分だった。元々、この道を選んだ時から覚悟は決めている。
「もちろん喜んで協力させてもらうわ。私も、姉さんに会いたい」
その言葉に澪士は再び頷くと、指を鳴らして車を止めた。最後に連絡手段として、瑠香と互いのメールアドレスを交換してから車を降りる。今後の連絡は全てメールで行うらしい。
車が止まった場所は冬華の家の前だった。現在時刻が深夜であることを考慮して、送ってくれたのだろう。実際、電車は既に終電を迎えてしまっているのでこれはかなり有難い。
冬華は軽くシャワーを浴びて服を着替えるとベッドに体を預けた。何はともあれ、今日を乗り越えられたのは大きい。そう思いながら冬華が安堵の息を吐いていると、唐突に眠気が襲ってきた。
体はもう限界のようだ。心配事は後ですることにして冬華はそのまま、意識を手放した。
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