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追憶
「ん…」
少女が霞む視界で辺りを見渡すと、そこは既に見慣れた少女の自室だった。未だ不明瞭な頭でゆっくりと上体を起こすと、壁に掛けられたカレンダーを流し見る。そのカレンダーには今日の日付である七月二十日の欄に、赤いペンで丸印が付けられていた。
「もう六年か…」
この日は少女の-如月冬華の姉、如月美晴が失踪した日だ。冬華はもう一度ベッドに倒れ込むと、六年前の記憶に想いを馳せた。自分を守ると言ってくれた、愛していると言ってくれた姉を引き止めることすら出来なかった過去の自分に後悔がないと言えば、それは嘘になる。
だが同時にあの時の自分の力ではどうしようもなかったことも、冬華は正しく理解していた。あの日の美晴の瞳は、確固たる覚悟を胸に秘めた人間のそれだったからだ。恐らく冬華が何を言っても、美晴の意思が揺らぐことはなかっただろう。
それは冬華も分かっている。だが美晴は冬華に言ったのだ。
『貴女のことは私が守ってあげる』と。
その言葉を思い出し冬華は唇を噛み締めた。そして、もう幾度となく紡いだ言葉を繰り返す。
「どうして…私だけ守るの…?」
冬華は、守られているだけの人間になりたくなかった。だが、当時冬華は十歳。その歳で出来ることなどあまりにも少ない。それがどうしようもない現実だ。
やはりそう考えるしか、今の冬華には出来なかった。
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