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四通の手紙
「そういえばあの手紙、今年も来てるかな…」
ふと思い立ち、冬華は長年使い込んだ机の引き出しを開けた。引き出しの中には、四通の手紙が仕舞われている。美晴が失踪した翌年から届くようになった手紙で、差出人は書かれていない。
文面的に美晴を知っているようで、住所らしきものと簡単な地図が同封されていた。だが冬華はこの手紙を無視し続けている。差出人不明の手紙など、この上なく怪しい。
姉の知り合いを名乗る人物に興味がないわけではないのだが、有益な情報を得られる保証もない。故に冬華は、現時点ではリスクとリターンが見合っていないと判断した。それでも冬華がこの手紙を捨てなかったのは、これが姉の最後の情報だったからかもしれない。
そんなことを考えながら冬華は手紙を引き出しに戻すとベッドの下から一振りの刀を取り出した。如月家に代々伝わる秘刀、華姫。冬華の愛刀だ。
海外移住者の増加により治安悪化が著しいこの帝国では十年程前から自衛目的のため、一定の条件を満たせば銃刀所持が認められている。冬華は幼少時から剣術を学んでおり、毎朝近所の森を一周するように走り込みを行っていた。その時には必ずこの華姫を持って行く。
今日も変わらず走り込みに行こうと思い立ち玄関の扉を開けると、ついでに扉付近に設置されたポストの中を確認する。だがそのポストに例の手紙は投函されていなかった。
(もう諦めたのかな…?)
冬華はそう思い、特に気に留めることもなくいつものルートを走り出す。何年も無視し続ければ、投函されなくなっても不思議ではない。冬華の認識はその程度だった。
しかし、後に冬華は思い知らされることになる。あの手紙の送り主が、この程度のことで諦めるような人物ではないということを。
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