五通目の手紙

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五通目の手紙

「…納刀して頂けませんか、如月冬華さん。私は今ここで、貴女と殺し合うつもりはないのです」 無言で睨み合うこと数秒後、女は高く澄んだ声でそう告げた。目深にフードを被っていたせいで顔もよく見えなかったが、まだ若い女のようだ。 「えぇ、構わないわ。但し貴女がその銃を仕舞うならね」 「…分かりました」 冬華の言葉に、女は手にした銃をホルスターに戻した。それを見た冬華も刀を鞘に納める。 「それで、用件は?」 「此方をお渡しに参りました」 女はそう言って衣類の内側から一通の手紙を取り出すと、冬華に向かって差し出した。警戒しつつも、冬華はその手紙を受け取り封を切る。そして。 「この手紙って…」 そう。この手紙は毎年冬華に届けられていたあの手紙と同じものだった。 「これの送り主って貴女だったの?」 「いいえ。私はただ、貴女にその手紙を届けるよう命じられただけです」 「なら、本当の送り主は誰?」 「その質問にはお答え出来ません」 即座に返されたその言葉に冬華は思わず歯噛みする。やはり、そう上手くはいかないようだ。 「ただ…我が主は貴女のお姉様とお知り合いのご様子。もし、貴女がお姉様を探し出したいのであればいつでもご連絡を。お待ちしておりますよ」 その言葉を最後に、女は踵を返して歩き始めた。 「待って!」 思わず引き止めた冬華に、女は足を止めたが振り返りはしない。 「…此方から連絡するつもりはないわ。残念だけど、他を…」 「いいえ。貴女は私たちの力を必要とします。…必ず」 女は僅かに振り返り、冬華の言を遮ってそう宣言した。 「…っ!」 その言葉に冬華は知らぬ間に唇を噛み締め、後退る。目の前のこの女に、心中を見透かされたような気がしたのだ。押し黙ったままの冬華を一瞥すると女は再び歩き始める。その姿が見えなくなると、不意に世界が色を取り戻し冬華の目にはいつもと変わらない森が映った。
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