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決意
翌日の明け方、冬華の自室にて。
(結局、一睡もできなかった…)
冬華は昨日から全く眠れずに朝を迎えていた。その原因はやはり姉のことだ。森で出会ったあの女から受け取った手紙を、ただ眺める。
その手紙には今までのものとは違い、冬華の知らない姉のことが書き連ねてあった。学生時代の繋がりから、学院卒業後はマフィアの幹部として帝国の闇社会に身を置いていたこと。どんな経過は分からないが突然マフィアを辞め、警備隊に入ったこと。そして今は、行方知れずだということ。
あっさりと信じることはできなかったものの、物的証拠として写真まで添付されてしまえば信じるしかない。現代の技術ならば加工することもできなくはないがそこまでする理由もないだろう。
ならば、あの手紙の内容はすべて真実だということになる。六年越しに初めて明かされる新事実に、冬華は思わず頭を抱えたくなった。
(まさか姉さんが堅気じゃなかったなんて…)
上手く隠し通されたものだと、冬華は思う。とはいえ、これで事態はさらにややこしいことになってきた。何せ、姉を探し出すならばこの帝国の闇社会に巣食う者たちと関わらざるを得ないということだ。
正直、あまり気は進まない。だが、冬華は既に腹を括っていた。
(まずはこの手紙の送り主と会って話をする。今後のことはそれから考えれば良い)
手紙に記されていた電話番号を確認しつつ、冬華は昨日の森での会話を思い出す。連絡するつもりはないと突き放した冬華にあの女は確かに言った。否、予言した。
『いいえ。貴女は私たちの力を必要とします。…必ず』
今思えば、あの言葉は冬華の核心をついたものだった。実際、彼女にはこうなる未来が見えていたのだろう。もしかしたら、冬華がこの答えに辿り着くように誘導さえしていたのかもしれない。
向こうの思い通りに動くのも癪だが、今の冬華にこれ以上の策は思い浮かばないのも事実だ。冬華が諦めつつ記されていた電話番号に電話をかけると、電話を取ったのは昨日の女だった。
「…如月冬華さんですか?」
「えぇ、私よ。手紙の差出人と話がしたい。伝えてもらえるかしら?」
「分かりました。日時が決まり次第、此方から連絡させていただきます」
その言葉を最後に電話は切られた。冬華は体から力を抜くとベッドに倒れ込む。
(これでもう、後戻りはできない…)
見慣れた天井をぼんやりと眺めながら、そんなことを考えた。同時に、これで良いとも冬華は思っている。戻りたい地点など今の冬華にはない。ならば、進むしかないのだ。
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