1章 夏の始まり

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1章 夏の始まり

 夏。  海。かき氷。プール。花火。バーベキュー。アイス。そんなワクワクする言葉だらけの季節がやってきた。夏休みの宿題なんて忘れて、思いっきり遊ぶ夏。今年はそんな夏にしたかった。いや、そうすると決めていた。 「つる、帰ろー!」 「うん!」  明日から夏休み。終礼が終わると、いつも一緒に帰っている友達が私に声をかけた。 「あ、まって。図書室に本返さなきゃいけないんだった……先に帰ってもいいよ!」 「そっか! ごめん、今日弟いるから早く帰んなきゃいけなくて……先帰るね! 夏休み遊ぼ! また連絡する!」 「うん! またねー!」  お互いに手を振って、荷物をまとめて席を立つ。  図書室へ向かって廊下を歩きながら、返却する本を鞄から出すと、ひらりと紙切れが一緒に出てきた。鞄に入れっぱなしだったので、くしゃくしゃになっている。 (入部届……結局どこにも出さなかったな)  紙を拾い上げ、ふと視線を上げると、廊下には部活の部員募集のポスターがまだ貼ってあった。目を引いたのは、小さい体で思い切りジャンプしてゴールしている部員を写した、バスケ部のポスター。  今の私には、汗すらキラキラと輝いて見える。 (いいな。こんなに跳べたら……)  持っていた白紙の入部届を無意識に握りしめた。  と、次の瞬間、突然視界を遮るものがあった。 「わ! ごめんなさい!」  横から男の子が突っ込んできて私にぶつかりかけた。ぶつかる寸前で止まったが、私はびっくりして体を縮こめた。  相手は、男の子にしては小柄だけど、体は筋肉でがっしりとしている。運動部だろうか。ぶつかっていたらこちらが飛ばされていたかもしれない。私が言うのもなんだが、初々しい雰囲気からして、年は同じ一年生のような気がする。  彼はちらりと私の手元を見て、聞いた。 「君も一年生? 部活、入ってないの?」 「え、う、うん」    そう答えると彼は大きな目をきらりと輝かせ、ぐっと身を乗り出した。 「マネージャー、やってみませんか?」
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