0人が本棚に入れています
本棚に追加
6章 負け
――声をかけられてから、数週間。夏休みも半ばだ。私も先輩からバスケのことやマネージャーの仕事を学び、サポートにも慣れてきた。
「鶴見さんって、飛鷹のこと好き?」
「えっ!? そっ、それは」
他校との練習試合中、唐突にマネージャーの先輩に聞かれて慌てていると、先輩はふふふと笑った。
「見てるとわかるよー。視線が違うもん。大丈夫、誰にも言わないからさ! 女同士の秘密ね」
私に顔を近づけ、こっそりと言った。美人な先輩にそう言われると、こちらまでドキドキしてしまった。
「飛鷹はねー、鈍感そうだから大変かもね! でも彼自身まっすぐだから、まっすぐな気持ちには応えてくれると思うよ」
(まっすぐ……まっすぐかぁ)
ふと、私はまっすぐな気持ちでいるだろうか、と考えてしまう。もちろん先輩は、飛鷹くんに対する恋愛感情のことを言っているのだけれども。
バレーからは、逃げてしまった。まだまだ、挑戦できることはあったはずだけど、中途半端に諦めてしまった。そんな私が、勝手に彼に憧れている。彼のした努力を、私はしただろうか? ただ「小柄」を言い訳にして自分で見切りをつけて、逃げてしまった私が、好きでいても、いいんだろうか……。
そんなことをぐるぐると考え、はっと気付くと、練習試合はもう終盤だった。
飛鷹くんは、苦戦していた。彼がすばしっこく動くことへの対策として、敵チームが三人も彼にマークをつけていた。大柄の三人に囲まれ思うように動けず、ボールはすぐとられてしまい、シュートも高い位置からはたき落とされて、ゴールも決められていなかった。
そして試合は、負けた。
「絶対……次は負けねー……!」
飛鷹くんが悔しそうに呟くのが聞こえた。
部員が一列に並んで、ありがとうございましたと挨拶をする。
「ありがとう」
ベンチに戻ってきた飛鷹くんは、笑って私の差し出したタオルを受け取った。いつもの太陽みたいな笑顔とは、ちょっと違った。
最初のコメントを投稿しよう!