6章 負け

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6章 負け

 ――声をかけられてから、数週間。夏休みも半ばだ。私も先輩からバスケのことやマネージャーの仕事を学び、サポートにも慣れてきた。 「鶴見さんって、飛鷹のこと好き?」 「えっ!? そっ、それは」  他校との練習試合中、唐突にマネージャーの先輩に聞かれて慌てていると、先輩はふふふと笑った。 「見てるとわかるよー。視線が違うもん。大丈夫、誰にも言わないからさ! 女同士の秘密ね」  私に顔を近づけ、こっそりと言った。美人な先輩にそう言われると、こちらまでドキドキしてしまった。 「飛鷹はねー、鈍感そうだから大変かもね! でも彼自身まっすぐだから、まっすぐな気持ちには応えてくれると思うよ」 (まっすぐ……まっすぐかぁ)  ふと、私はまっすぐな気持ちでいるだろうか、と考えてしまう。もちろん先輩は、飛鷹くんに対する恋愛感情のことを言っているのだけれども。  バレーからは、逃げてしまった。まだまだ、挑戦できることはあったはずだけど、中途半端に諦めてしまった。そんな私が、勝手に彼に憧れている。彼のした努力を、私はしただろうか? ただ「小柄」を言い訳にして自分で見切りをつけて、逃げてしまった私が、好きでいても、いいんだろうか……。  そんなことをぐるぐると考え、はっと気付くと、練習試合はもう終盤だった。  飛鷹くんは、苦戦していた。彼がすばしっこく動くことへの対策として、敵チームが三人も彼にマークをつけていた。大柄の三人に囲まれ思うように動けず、ボールはすぐとられてしまい、シュートも高い位置からはたき落とされて、ゴールも決められていなかった。  そして試合は、負けた。 「絶対……次は負けねー……!」  飛鷹くんが悔しそうに呟くのが聞こえた。  部員が一列に並んで、ありがとうございましたと挨拶をする。 「ありがとう」  ベンチに戻ってきた飛鷹くんは、笑って私の差し出したタオルを受け取った。いつもの太陽みたいな笑顔とは、ちょっと違った。
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