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「蛮族だと! ああ、蛮族で結構だ! 貴様らのような虫けらに成り下がるくらいならな! そんなに勇者が気に入らなかったのならば堂々と勝負を挑め! 毒などと……!」
「だからといって、お前のような無法に出ていいわけがあるまい! そんなことを許せば、世の中はただの闇だ! 魔が跳梁していた時代とどう違う!?」
打ち合わされる剣戟の凄まじさに指揮官の一騎打ちを見守る兵たちは息を呑んだ。
……将軍が優れた剣士でもあるのは剣戟が成立している時点で証明されていた。斬魔の域にある剣聖と切り結ぶには最低でも斬鉄の領域に達していなければ話にもならないのだから。
しかし、十合を越えたあたりから地力の差が露呈し始めた。
才の差、鍛錬の差も然ることながら剣聖は将軍と違い個人としての武を磨くことだけに神経を注いで来たのだ。それを踏まえれば違うのは純粋性の差とも言えるだろう。
「どうした! 屑どもの下で暮らしていて腕が鈍ったか!? 岩陰に潜む虫けらどもに使われた挙句がそれか! 見るに耐えんぞ!」
「お前が言えたことか! 私程度にこうまで手こずる……それこそがお前が矛盾している証拠だろう! 剣先にキレが無いぞ! 当代最強がこの程度のはずはあるまい……!」
指摘に剣聖は唇を噛んだ。
そう、剣聖は全力ではない。そしてそれは望んだ手加減ではない。
剣を振るう以上は相手に敬意を払い、死力を尽くすことが礼儀にも関わらず、それが出来ない。
将軍は同士なのだ。それを撃ち殺してしまえば……己は王城に巣食う者どもと……どう違う? いいや違うはずだ、己は少なくとも自身の手を汚す気でいる。
心を奮わせようとしても肉体がそれを裏切る。
――こいつとは戦いたくない。
そんなありきたりな感情を初めて味わい、持て余す剣聖を将軍は痛ましげに見ている。
「お前の武勇に救われた私達が言うことではないが……お前は故郷から出て来るべきではなかったのだ。熱い砂漠こそがお前のいるべき所で、こんな冷たい石の街ではなかった」
「黙れ……! 頼むから黙って通してくれ!」
強者が一枚劣る者に哀れまれていた。応える剣聖の声は泣き叫ぶ子供のようだ。
――この地に来るべきでは無かった? それは……あいつらと出会わなければ良かったということで……数多の思い出がある光景の消失を意味する。
認められる筈もない。
「なぜだ!? 人の皮を被った畜生どもを殺すだけだろう!? なぜ貴様のように誇りある男がそれを邪魔するのだ!」
矛盾に苦悶する言葉とは裏腹に速度を増していく剣。心の乱れによって加減が効かなくなってきている。
今や将軍は打ち返すこともできずに防戦一方だ。しかし、剣聖は本当に優勢なのか?
親しかった人との決別に心が軋んだ顔は人魔戦争の頃とは別人のようだ。
「誇りがあるからこそだ。そして……敵と味方に世界が分かれている時代は終わってしまったんだ、セイフ」
「黙れぇぇぇ!」
とうとう一線を越えようとする大曲刀。
混乱した担い手の感情を無視して刻み込まれた動作が最高の一撃を見舞おうとした。
「……遅くなりました将軍」
その時、青い宝石で出来た刀身が曲刀を阻んだ。
他者の接近に気付かないほどに剣聖は混乱していたのだ。
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