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2.
俺は自分の生き方を決めて以来、一心不乱に前だけを見て走ってきた。
遠巻きにこちらを見ている人はいても、話のできる距離には誰もいない。そんな状況が当たり前だったが、荒野に辿り着き立ち止まったところで虚しさを感じた。
虫一匹いない砂と岩だけの景色を見続けるうちに寂しさまで感じ始めた。
人は一人では生きて行けないとはよく言われるが、本当にその通りだったらしい。
いままで、一人で走ることが最善で誰かが傍にいても生きる妨げにしかならないと思っていたが訂正をして早く出て行きたい。
歩き回れば出口が見つかるかもしれないが、夏の太陽の下を歩く気にはなれない。街と違って全く日陰がないので尚更だ。
暑い。
どうしたものかと座って考えるうちに、本当に自分はここを抜け出してまだ先に進みたいのかという疑問が出てきた。
進んだ先に何を求めるのか、どんな景色を見たいのだろうかと頭を捻ってみたが、答えは全く出てこなかった。
結局、俺には何もないのかもしれない。フリーの記者として一人走り回ってきたが、始めた当初のことは忘れた。いつの間にか走り回ること自体が目的になっていたらしい。
空虚だ。
考える以外にすることがないせいで、時間を長く感じる。先ほどまで残された時間を思って焦っていたのは何だったのかと自分で自分に呆れた。
ただ座って過ごすうちに陽が落ちて急激に冷えてきた。土には熱があるが、そこに寝転がる気にはなれない。支えになるものを求めて岩にもたれた。
この岩ももうすぐ冷たくなるのだろうが、背を預けられたらそれでいい。眠気はほとんどないが疲れてはいるので目を閉じればどうにか眠れそうだった。
目を閉じるとともに昼に感じていた虚しさと寂しさが消えた。人がいないからこそ安心だと思う。暗くなればより寂しさを感じそうなものだが、そうはならなかった。俺は元より一人でいることを好む人間だ。
空虚感は一時的なもので気の迷いだったのだろう。そう片付けるのが自分らしい。これ以上はもう何も考えないことにして眠った。
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