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座り続けると決めたとはいえ、座りっぱなしでは身体が痛くなる。時折立って歩いてみては元座っていた場所に戻るそんなことを続けて二日が経った。
体力を使わず敢えて何も考えない日々はきついものがあるが、自分で死のうにもそのための道具がない。紐もナイフも持っていない。もし紐があったとしてもそれを括りつける木がないので、結局は干乾びるのを待つしかない。
いま現在、空腹と喉の渇きがあるものの身体に異常はない。
健康的であることに絶望するという矛盾が出てきている。
それだけでもおかしいが暑さで更におかしくなったのか、「あ」という声が聞こえた。
「こんなところで何してるの?」
子どもの声だった。幻聴だろうと思い無視したらもう一度訊いてきた。
「何してるの?」
「何もしてないさ。強いていうなら自分が消えるのを待ってる」
答えると、すぐに次の質問がきた。
「消えたいの?」
「その通り。もう終わりにしたいんだ。そっちこそ、何でこんなところにいるんだ?」
「兄さんを待ってたんだ」
「え?」
友好的な言葉に戸惑った。同じ「待っていた」でも俺が普段聞いていたのは社交辞令で、相手が待っていたのは俺ではなく情報だ。
声の主は相変わらず声だけのままで違和感を持ったまま話を続けた。
「兄さんって」
「えっと……おじさんって言ったら怒るかもしれないと思って」
「別に怒らない。で、待ってたってどういうことだ?」
「どういうって、言葉通りだけど」
答えになっていなかった。
「誰でもいいから話したかったってことか?」
「まあそうなるかな」
曖昧なことを言う。
これ以上訊いても分かりやすい答えは得られそうにない。声だけの相手に対して真剣にもなれないので、思いつくまま話を進めた。
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