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「こんなところで生活してんのか?」
「僕はただここにいるだけだよ」
あっさりとした答えが返ってきた。
「何で顔を見せないんだ?」
「見せたほうがいい?」
「どっちでも」
投げ遣りに答えたが声の主は寛容だった。「分かったよ」と言い、岩の影から姿を現した。
「こんにちは、かな」
10歳前後の少年がどこか照れたような顔をして立っていた。長袖のTシャツに長ズボンという質素な恰好だったが仕事用の白シャツを着崩している俺より整って見える。その辺りの小学生とはどこか違っていた。
「お前一体何なんだ?」
「さあ何だろうね」
「真面目に答えてくれ」
「そう言われても」
言えないらしい。少々引っかかるが、絶対に答えがほしいというわけでもない。全く別な質問を投げた。
「紐かナイフかそういう物持ってないか?」
手ぶらだと分かっていて訊いた。
いま持っていなくてもどこか別なところに置いているかもしれないと思ったのだが、答えは「ない」だった。
「そうか。俺からの質問は以上だ」
暇つぶしは欲しいが、不毛な話はしたくなかった。それをするぐらいなら一人でいたほうがいい。少年を無視して目を閉じた。
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