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 寝たふりをしていればいつかは諦めてここからいなくなるだろうと思っていたが、いつまで経っても少年の気配が消えなかった。  こちらから声をかければ負けだと意地になって寝たふりを続けていたが、それも限界だった。気になって仕方がない。これでは本当に眠る気になっても眠れないので追い払うことにした。 「いつまでいる気だ? 俺はもう何の望みも持ってない奴だぞ。近くにいても意味がない。家に帰れ」  どこかにはあるだろうと思って言った。家出してきたと考えるのが妥当だが当人は「ないよ」と道具について聞いたときと同じように答えた。 「家があっても、お前にとっては家じゃないってことか?」 「本当にないんだよ」少年は真面目に答えて、話を変えた。「それより、もう本当に全部諦めてるの?」 「ああ。だからさっきも言ったように俺に付き合ってもいいことないぞ」 「本当に?」 「本当に。行き場がないならお前もここで死ねばいい」 「それは……できないよ」 「なら、どこか別なところへ行け。俺は一人でいたいんだ」 「別なところって?」 「どこでもだ。歩いてりゃそのうちここから出られるだろう」  ただの質問に苛立ちながら返した。  この少年がどこから来ていつからここにいるのか知らないが、来たのなら出られる。俺にはその気がないからここにいる。ただそれだけの話だ。  が、少年は全く動こうとしなかった。 「兄さんは本当にそれでいいの?」 「いいよ。さっきからそう言ってるだろう」 「ここで死んだら、誰からも忘れられるんだよ」  言い切った彼は何故か悲しげだった。 「別にそれでいい。俺が死んでも記事は残る。まあそれもいつかは消えるんだけどな」  本音を返すと更に悲しさの増した表情になった。 「何でお前がそんな顔するんだ? おかしな奴だな」  顔と声を知った程度の間柄なら無関係だ。俺の考えがおかしいのかもしれないが、この少年はどうにもただの子どもには見えない。 「何者だよ」 「……分身」  訊くと、言い辛そうに答えた。 「分身?」 「兄さんの」 「変なこと言うなよ」 「変に聞こえるだろうけど、本当にそうなんだ。ここへ来たってことは自分に向き合おうとしたってことなんだ」 「なんだそりゃ。俺はちゃんと自分を見てる。自分がどんな奴かは俺自身よく分かってる」 「だろうけどさ、本音は隠してるよね」 「それは……ない」 「本当に?」  自分に嘘をついているんじゃないかと言い出した。
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