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「生きていれば隠すことも出てくるし、自分に対して嘘も本当もないだろう。何を難しく考えてるんだ?」
「何をって……」
「答えがすぐに言えないなら疑うのはやめるんだな」
上から返す。
少年は何も言い返してこなかったが、何か不満のある顔をしていた。
「言いたいことがあるなら言えばいい」
「……本当に忘れられていいの?」
「いい」
全てがもうどうでもいい。
終わりにしてしまいたいがこの少年がいる限りそれは叶わない。どうやって振り切ったものかと考える。
少年の言うことを全て信じるわけではないが、自分を振り切るのは他人を振り切るより難しい。それが無理ならと考えて、思いついたのは向き合うことをやめればここを出られるのではないかということだった。
少年を無視。自分自身も無視。それで解決するなら話が早いし手間もかからない。俺は次に目を開けたときは一人になっていてほしいと思いながら意識を手放した。
が、数分もしないうちに少年に負けた。最初は声をかけてくるだけだったがそのうちに肩をつついていたが、その力が回数とともに強くなっていき、最終的には叩くようになった。
「何なんだ? 俺のことは放っておいてくれ。最初からそう言ってるよな」
「放っておけないよ。自分なんだから」
蛾を追い払うように苦情を投げると、開き直ったような一言が返ってきた。
「まだそれ言うのか」
「言うよ。本当のことだから」
「証拠は?」
「そんなのはないけど」
何もないのでは信じられない。元より信じる気はないが一つ試してみることにした。
「俺だけが知っていそうなことを一個言ってみろ」
「え?」
「いいから言ってみろ」
「実は編集の田口さんに感謝してるとか。あと取材相手だった遠藤さんに悪いことをしたと思ってるとか」
「……何でそういう方向なんだ」
「本当は忘れてほしくないし、忘れたくないんじゃないの?」
苦情を返したが、流された。
「答えになってないぞ」
「兄さんが心の底でそう思ってるから」
今度は真面目な一言が返ってきた。
俺はそんなことを思っていないが、否定までは出来なかった。ただ単に認めたくないだけなのかもしれない。
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